評価者トレーニングとは、人事評価を行う組織管理者(役職者等)の評価能力を向上させることを目的とした教育プログラムです。
企業の人事評価制度(仕組みと評価基準)には、その企業のビジネス特性や価値観、短期・中長期の人事処遇のあり方が反映されています。
評価者が適正な評価を行うためには、企業の人事評価制度の適切な理解と、評価情報を的確に収集するスキルが不可欠です。
また、多くの日本企業の評価者には「適正に評価する」だけでなく、「人事評価を人材育成に活用する」ことが求められています。個人別に異なる評価結果を踏まえた効果的な指導・育成のスキル(含:納得感のある評価フィードバックのスキル)も必要です。
評価者トレーニングが必要とされる背景
1.人事評価が人事処遇に大きく影響
バブル崩壊後の成果主義 ブーム以降、人事評価による処遇の変動や処遇格差の拡大が一般的になりました。人事評価が処遇に大きく影響することで、企業は社員の働きに応じて人件費を効果的に配分できます。
また、社員は「頑張れば処遇が向上する」というやりがい(モチベーション )を持つことができます。当然ながら、上記のようなメリットは、人事評価が適正に行われることが大前提です。
企業は、人事処遇を公正に決定するために、人事評価制度(仕組みと評価基準)において「何を、どのように評価すべきか」を定めています。
しかしながら、実際に評価を行うのは、多数の組織管理者(以下、評価者)です。多数の評価者が人事評価に参画することで、評価者によって「評価基準の解釈が異なる」「評価のアマカラ(不公平)が発生する」「評価のプロセス(面談やフィードバックの方法)が異なる」など、公正な人事評価の運用が困難な事象が発生します。
仮に(2次・3次評価者による評価修正や全社の評価調整プロセスなどを通じて)最終的に適正な人事評価を決定できたとしても、自分の直属上司(1次評価者)が他の評価者と異なるような価値判断や評価プロセスを行っていれば、社員は不安を抱き、評価結果に納得することは難しいでしょう。
社員の納得感とモチベーションの観点から見ると、人事評価は、その結果が適正であるだけでなく、(被評価者から見える)評価のプロセスも適正であることが重要です。
このように、処遇に大きな影響を与える人事評価を公正に決定するということに加え、人事評価に対する納得感を高めるという観点から、一人ひとりの評価者の評価能力を高めることが求められています。
2.自立(自律)人材の育成
技術革新やグローバル化の進展により、多くの企業が「自立(自律)人材」を求めています。
自立(自律)人材とは、企業組織内外の変化を察知して、企業経営の方向性に沿って自分で課題を設定して能動的に取組み、そのことを通じて自分自身を成長させ、企業に継続的に貢献していくことができる人材です。
このような人材を育成するためには、人事評価において工夫が求められます。
例えば評価基準は、環境変化を想定した本質的な基準となるために抽象度が高くなります。あるいは、個人が組織における役割や担当業務を踏まえて目標設定を行うことが求められます。このような評価制度は、評価の難易度が高く、より高度な評価能力を求められます。
また、人材を育成するという観点からは、評価をどのように受け止め、次に繋げるかということが重要になります。評価者は、適正に評価を行うだけでなく、評価結果を活用して被評価者の「気づき・考察」を促し、被評価者自身が自律的に成長していけるように導く能力も求められています。
3.組織再編による評価基準の統合
事業環境の変化に対応して企業の競争優位を維持し続けるために、M&Aや組織再編 (合併・分社など)が盛んに行われています。組織が再編されると、組織の目指す姿や組織内での働き方が変わり、これに伴って人事制度についても見直しが行われます。
例えば「合併」が行われると、多くの場合、人事評価制度についても統合されます。
しかしながら、人事評価制度を統合すれば、評価者の考え方や判断基準、あるいは評価プロセスも自然に統合されるというわけではありません。むしろ、統合直後は「旧来の考え方」が色濃く残ってしまい、統合前の旧組織間での不公平感や損得感情が発生しがちです。
合併のような組織再編において人事制度の見直しを行ったら、まず行うべきは「評価者の考え方や判断基準の統合」です。特に、旧組織の評価の考え方や判断基準と「なぜ、どのように変わるのか」ということを簡潔明快に伝える必要があります。
また、評価プロセス(面談やフィードバックの方法など)についても旧組織間で違いが大きい場合には、改めて評価者トレーニングを行うことが不可欠です。
4.評価者と被評価者の年齢逆転の増加
年功序列人事から実力主義人事に移行すると、「年下上司が年上部下を評価する」という状態が発生します。
従来の年功序列人事のもとでは、年長者(または経験年数が長い)ということが評価者の権威の一部となっており、その権威によって被評価者を納得させることができました。
しかし、「年下上司が年上部下を評価する」という状況では、評価能力とコミュニケーション能力によって被評価者を納得させることが求められます。
とりわけ「年上部下」には評価が低い社員が含まれており(評価が低いために昇格できず、年下社員に追い抜かれてしまう)、納得感のある評価のフィードバックと動機づけの難易度は高いと考えられます。(早期選抜されてきた評価者は、自身が高い人事評価しか受けたことがないために、低評価者の状況や心情を理解できず、効果的なフィードバックや指導が難しい、という意見もよく聞かれます)
すなわち、現在の評価者には、以前の評価者と比べて明らかに高度な評価能力が求められており、評価者トレーニングの機会が必要と考えられます。
評価者トレーニングの機能とメリット
1.評価能力の向上
評価者トレーニングを通じて、評価者の評価能力を向上させます。
具体的な評価能力は以下の通りです。
《評価能力》
- 評価者としての適切な役割認識(評価者の権限と責任の認識、人事評価の目的の認識、など)
- 評価制度の内容と評価方法の理解(評価制度と評価基準の理解、評価結果と処遇の関係の理解、など)
- 公正な評価を行う能力(目標設定の能力、評価情報収集能力、評価基準に沿った判断力、評価調整能力、など)
- 被評価者に伝える能力(目標設定面談・中間面談・フィードバック面談の能力、被評価者の自己認識を修正する能力、など)
2.評価の目線合わせ
評価者は通常、評価制度や評価基準だけに従って評価をするのではなく、「他の評価者はどのような評価をしているのだろうか?」ということを気にしながら評価を行います。
特に、「自分は他の評価者よりも厳しく評価していないだろうか?(自分の部下は損をしていないだろうか?)」ということが大いに心配です。このような心理から、全体的に評価が甘めになりがちです。
このような心理を防ぐためには、評価者の目線(判断基準)を厳格に保つという意識の共有(空気感の醸成)が必要です。
人事評価の方法を解説するだけならば、集合研修のような形式を用いず、テキストや映像を活用した学習方法とすることも可能です。しかし、それだけでは評価者の目線を合わせることは困難です。
集合研修方式の評価者トレーニングの場を設定することで、お互いにどのような目線で評価しているのかを確認する(あるいはインストラクターが評価者の目線を確認しながら全体を適正な水準に導く)ことができます。
3.人事評価制度の前向きな理解促進
どのような評価制度にも効用と副作用があります。
例えば、人事評価には「絶対評価 」と「相対評価 」という考え方がありますが、それぞれに効用と副作用があり、どちらが優れた評価方法であるということは一概には言えません。
企業は「効用」を重視して評価の仕組みを選択・構築しますが、被評価者は「副作用」に着目して評価制度に不満を感じる傾向にあります。評価者が、自社の評価制度の「効用(または目的)」を深く理解していなければ、被評価者の「副作用」に対する懸念に答えられず、自信を持って評価を行う事が困難です。
評価者トレーニングという場があることで、評価者の「自社の評価制度に対する理解度」を確認することができ、必要に応じて補足解説を行いながら、評価制度を前向き活用していこうという意識を醸成することができます。
クレイア・コンサルティングが提供する評価者トレーニングの特長
1.評価制度設計を熟知したコンサルタントが解説
評価者研修の講師(インストラクター)は、日々人事制度の設計や定着のコンサルティングを行っているコンサルタントが担当します。
コンサルタントが担当することにより、各企業の人事評価制度の効用と副作用を的確に理解し、評価を行う上で難易度が高いポイントを予測して実践的なトレーニングプログラムを企画・開発する事が可能です。
また、経験豊富なコンサルタントが「効用」と「副作用」を中立的な立場で説明し「効用」の重要性を強調することで、評価者は自社の人事制度の「ねらい」と「評価や被評価者への説明の際に留意すべき点」を整理して理解することができます(社内の人事担当者が、自社の評価制度の「副作用」を明快に解説することは難しいと思われます)。このことを通じて、評価者が自社の評価制度を「前向きに理解」するように導くことができます。
さらに、クレイア・コンサルティングのコンサルタントは人事制度の構築だけでなく、運用・定着局面でのコンサルティング経験を豊富に有しており、評価者からの質問に対して、(理想論や机上のあるべき論ではなく)実践的・現実的な対策をアドバイスすることが可能です。
2.目的に適したプログラム設計
評価者トレーニングの企画・開発と実施においては、具体的な「トレーニング効果」を重視します。
自社の人事評価制度の目的・内容と、評価運用や評価能力の実態を踏まえて、意図したトレーニング効果を最大化できるようなトレーニングプログラムを構築します。
トレーニングプログラムには、(全体の時間制限にもよりますが)実践的な演習を多く取り入れ、講義形式では得られない「気づき・腹落ち」を重視しています。
3.「評価やフィードバックが難しいケース」に焦点を当てた解説・演習
評価制度の内容(評価体系、評価基準、評価プロセス)、および自社の組織・人事の実態を踏まえて、「評価やフィードバックが難しいケース」(評価者が困ると思われる事態)を具体的に取り上げ、対策をアドバイスします。
「評価やフィードバックが難しいケース」の例は下図の通りですが、具体的には、人事担当者へのヒアリングとコンサルタントの洞察(他社事例等から想定されるケースなど)によって、トレーニングで取り上げるべきケースをリストアップします。
「評価やフィードバックが難しいケース」を正面から取り上げ、理路整然と対応策を解説することにより、評価者は自社の人事評価制度をより深く理解し、自信を持って評価を行えるようになります。
4.実践的な評価テクニックを解説
一般的な評価者トレーニングでは、「評価情報はこまめに記録しておきましょう」「被評価者の職務行動をよく見て評価しましょう」「フィードバック面談は被評価者が納得するまで時間をかけて行いましょう」などと指導されます。
しかし、どれだけの評価者が、このようなことを実践できているでしょうか?
クレイア・コンサルティングの評価者トレーニングでは、「多くの評価者が実践できそうもない理想論」を語るのでなはなく、「現実的に実践可能で効果的な評価の工夫(テクニック)」を教授します。
これらの実践的な評価テクニックは、コンサルタント達が、多くのクライアント企業の人事担当者や評価者達との議論や実践・検証を通じて蓄積してきた知恵です。
また、自社の評価制度の目的と内容を踏まえて、適正な評価運用を行うためのポイント(焦点)を絞込み、評価者が現実的な負荷(所要時間)で適切な評価を行えるようにアドバイスを行います。
評価トレーニングを導入/実施する際の流れ
1.コンセプト設定
自社の評価制度の思想的背景と目的、現状の課題を整理します。その上で課題解決に向けた優先順位を確認します。そして評価者トレーニングの実施におけるコンセプトを設定します。
1-1. 現状把握
- 収益構造など、自社のバリューチェーンを整理して組織構造を俯瞰します。
- 人事制度における評価制度の位置づけを把握します。(下図参照)
- 等級定義や評価基準、配点(ウエイト)のガイドラインなどの評価制度の詳細を確認します。
- 評価シートや評価マニュアルなどの評価ツールを確認します。
- 評価プロセスや報酬反映、昇降格などの全体スケジュールを確認します。
- 評価スキームや一般事例などから、評価制度の構造上の特徴を整理します。
1-2. 課題整理
- 人事理念や評価の考え方などのありたい姿を把握します。
- あるべき評価者像を評価プロセスにもとづいて整理します。
- 制度運用における現状を把握します。または想定される課題を明確にします。(下図参照)
2.基本設計
コンセプトに基づいて評価者トレーニングの設計を行います。
まず、コンセプトを実現するためのトレーニングプログラムの構造を検討します。そして最適な学習効果をはかるために、具体的なカリキュラム(教育手法等)を具体化します。
2-1. トレーニング構造設計
- 確定したコンセプトをもとに、重点課題を再整理します。
- 課題を解決するためのトレーニング構造を検討します。
(1)人事評価の考え方を腹落ちさせるトレーニング
(2)評価者が行うべき事(To Do)を理解するトレーニング
・時系列で行う事の理解(期初→期中→期末)
・組織的に行う事の理解(1次評価者→2次評価者→評価調整会議)
(3)個別具体的なケースに対応するトレーニング
・評価者によって見解が分かれやすい項目の判断
・低評価者の目標設定とフィードバック
・異動者の目標設定と評価 など
2-2. カリキュラム設計
- トレーニングを各単元に分け、下記を明確にします。
(1)ねらい
(2)所要時間
(3)理解すべき知識、習得すべきスキル
(4)活用する教育技法
(5)進行イメージ
(6)事前課題・事後課題の有無 - 活用する教育技法については、ねらい、所要時間、理解すべき知識や習得すべきスキル、対象者の特性などを踏まえて選択します。
3.コンテンツ開発
トレーニングプログラム別の具体的な実施手順とツールを開発します。
3-1. テキスト開発
- 学習内容を分かりやすい文章と図表を用いて作成します。
- 学習システムのサブシステムとして講師のインストラクションを支えます。
- 研修終了後は、振り返りとしても記憶が再現できるように要点を明示します。
- 自社の共通言語を最優先にした表現を心がけます。
- 開発過程においては、納得するまでレビューを行います。
- 将来の内製化に備え、データで納品します。
3-2. ツール開発
- テキストと同様、学習システムを支えるためのツールを開発します。
・自社版の困難なケース
・役割認識の理解度テスト
・評価傾向チェックシート
・To-Doチェックリスト
・業務分担シート
・コミュニケーションシート
・面談シート など
4.トレーニング実施準備
コンテンツの完成と併せて、実施に向けた準備に入ります。
自社の評価制度運用スケジュールと業務都合を踏まえてベストなタイミングや日取りを決め、制約条件を踏まえて必要備品や会場レイアウトを確定していきます。
4-1. 実施スケジュール調整・参加者調整
- 自社の評価スケジュールと業務都合を踏まえて日程調整を行います。
- 階層や部門などの対象者の属性について、最適な編成を提案します。
4-2. 実施スケジュール調整・参加者調整
- ホワイトボードやプロジェクターなどの必要備品を共有します。
- 評価者自身の役割シーなど、必要に応じて持参物を共有します。
- 学習効果の最大化を目指した会場レイアウト案を提供します。
4-3.備品準備・持参物準備_オンラインによる実施
- 自社のWEB会議システムを使用できます。
- 年度の目標シートなど、必要に応じて持参物を共有します。
- オンライン実施向きのカリキュラムを提供します。
5.トレーニング実施と報告
トレーニングを担当した講師(インストラクター)が、コンサルタントの視点で人事評価の定着・向上に向けた課題とアドバイスを提言します。
また、トレーニングで評価者から出された質問への回答など、トレーニング参加者全体で共有すべき追加情報を整理し、提供します。