人事制度は経営戦略を支える仕組みであり、等級・評価、報酬を基盤とし、組織の方針や求める人材像と適合する必要があります。
人事制度設計では、①従業員のやりがい向上、②多様な人材管理、③職種・事業特性に合う制度、④経営の意図を伝える設計、⑤同業他社の動向考慮が重要です。一方で、人件費増大、法的問題、モチベーション低下、運用負荷の増加といったリスクがあり、事前に対策を講じる必要があります。
当社では人事制度設計コンサルティングを行う際は以下の3点に重視します。
- 重視Point1.対象企業の事業戦略と人事マネジメントの現状を徹底的に理解
- 重視Point2.多様な選択肢の中から最適なツールやメカニズムを選択し貴社にフィットするようアレンジ
- 重視Point3.仕組みだけでなく、運用面を重視し、導入まで全面支援
本稿では、人事制度のコアとなる「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の設計について説明します。
人事制度とは(経営における人事制度の位置づけ)
人事制度は経営戦略を実現するための人事施策の一つです。
人事施策には、採用、配置・異動、育成、等級・評価、報酬があります。人事制度は等級・評価、報酬を実現するための基盤であり、従業員の行動に強い影響を及ぼす重要な仕組みです。そのため組織の「人事方針(人事政策)」「求める人材像」と適合したものでなければなりません。また、その他の人事施策(「採用」「配置・異動」「育成」)も含め、一貫したポリシーの下で人事制度を設計することが非常に重要です。
人事制度設計におけるポイントと留意点
人事制度設計のポイント
人事制度設計の方向性を検討・具体化する際のポイントは5つあります。
- Point 1.事業成長・組織拡大に向け、多様な人材を確保・吸引し続けるために、従業員のやりがいの向上を目指す。
- Point 2.今後、組織や人材の多様化(=拡大)が進んでも運用に耐えうる効果的な人事管理の仕組みを構築する。
- Point 3.職種別の特性、事業運営の特徴に合わせた最適な人事制度を検討する。
- Point 4.従業員に対する経営側のメッセージが適切に伝わるよう、制度設計の方向性・重点を検討する。
- Point 5.同業他社の取組みや最新の人事に関する動向も踏まえ、自社に最適な取組みを取り入れる。
人事制度設計に付随する4つのリスク
人事制度を設計する際はリスクが伴うことに注意しなければなりません。主に4つのリスクがあります。
- Risk 1.人件費増大リスク
不利益変更回避による人件費上昇、初任給上昇などによる今後の人件費上昇リスク、過去の残業代不払い等の顕在化による費用発生等のリスクが発生する可能性があります。 - Risk 2.法的リスク
不利益変更による訴訟リスク、運用の違いや不徹底による訴訟リスク、変更手続きの不備による訴訟リスクが発生する可能性があります。 - Risk 3.モチベーションリスク
処遇低下によるモチベーションダウン、損得感情、実力・貢献度と処遇の乖離の顕在化による不公正感、これまでの将来予測が変わることによる閉塞感が発生する可能性があります。 - Risk 4.運用リスク
運用負荷の増加、評価者の評価能力不足、職場ごとの運用状況の違いが発生する可能性があります。
これらのリスクを事前予測し、リスクの回避策または軽減策を講じることが重要です。
リスクはトレードオフの関係にあり、リスクゼロの人事制度設計は困難ですが、事前にリスクを把握することで顕在化を回避することができます。人事制度の改定の場合は、リスクを網羅的に把握するために、現行制度が運用されている実態(およびこれまでの経緯)も確認することが不可欠です。
クレイア・コンサルティングの人事制度設計支援の特長
クレイア・コンサルティングでは、人事制度を設計する際、以下の3つのポイントを重視します。
- 重視Point1.対象企業の事業戦略と人事マネジメントの現状を徹底的に理解
- 重視Point2.多様な選択肢の中から最適なツールやメカニズムを選択し貴社にフィットするようアレンジ
- 重視Point3.仕組みだけでなく、運用面を重視し、導入まで全面支援
重視Point1.対象企業の事業戦略と人事マネジメントの現状を徹底的に理解
- 「事業戦略」と「人事マネジメントの現状」の理解に努め、ベストマッチする人事制度を設計します。
- 人事領域にとどまらず、経営的な視点から最も適切な人事制度を提案します。
重視Point2.多様な選択肢の中から最適なツールやメカニズムを選択し貴社にフィットするようアレンジ
- クレイア・コンサルティングのコンサルタントは、これまで様々な人事制度のツールを設計・導入した経験を有しており、それぞれのメカニズムや特徴を深く理解した上で、最適なツールやメカニズムを提案します。
重視Point3.仕組みだけでなく、運用面を重視し、導入まで全面支援
- クレイア・コンサルティングは、実際に制度が活用される運用局面まで見据えて、人事制度の設計を行います。
- また、制度を運用する立場の管理職や評価者の視点で、各職場で運用しやすい制度を構築します。
人事制度設計の流れ
人事制度を設計する際は、先述した人事制度の捉え方、設計時のポイントや留意点を理解することが非常に重要です。
クレイア・コンサルティングは、企業ごとに異なる課題やニーズに対応するため、オーダーメイドの人事制度設計を提供しています。業界・企業規模・成長フェーズなどを考慮し、標準的なフレームワークの押し付けではなく、企業の実情に即した制度を構築することを重視しています。
人事制度を設計の流れは、
となります。
では、実際にどのようにして人事制度を設計するのか、具体的な支援内容を説明します。
1.現状分析
経営幹部などへのインタビュー、現行人事制度の分析を行います。
1-1.経営幹部などへのインタビュー
経営幹部・事業責任者を中心にインタビューを行い、今後の組織運営の考えやそれを実現するための課題、新人事制度に対する要望などの聞き取りを行います。
下図は、経営幹部へのインタビューの質問内容イメージです。
1-2.現行人事制度分析
人事制度関連資料と人事部へのヒアリングに基づき、現行人事制度の内容を把握し、仕組み上の課題や運用上の課題を把握します。
事業計画や財務諸表から始まり、従業員個人のデータまでたくさんの資料やデータをもとに分析を行います。
2.概要設計
概要設計では、人事マネジメント方針と人事制度の根幹を成す「等級」「評価」「月給・賞与」各制度の設計要件を策定します。
2-1.人事マネジメント方針策定
人事制度の骨格となる「求める人材像」と「人事マネジメント方針」の原案を策定します。
人事マネジメント方針
人事制度設計の最終的なゴールは、将来の事業の「あるべき姿」の実現に寄与することです。そのためには「あるべき姿」と「現状」のGAPを明らかにし、制度設計で「何を実現するのか?」を絞り込むことが必要です。
これが「新人事制度の基本方針」であり、今後、人事制度を見直していく上での根幹となります。
【人事マネジメント方針の進め方イメージ】
求める人材像
求める人材像の構成要素は「基盤姿勢」、「能力(コンピテンシー)」、「知識・スキル」です。
下図は、それらの成果につながる行動のメカニズムを示しています。
【成果につながる行動のメカニズム】
2-2.人事制度の基本方針と全体像の策定
上記で策定した、人事マネジメント方針と求める人材像をもとに、人事制度の基本方針と全体像を策定します。
下図は、新人事制度の基本方針と全体像のイメージです。
2-3.人事制度の根幹である「等級」「評価」「月給・賞与」の各制度設計要件
等級の概要設計
等級数を増やして昇格審査の機会を多く設けることで、選抜の仕組みを導入していきます。適正な選抜を行なうために、等級定義や昇格審査内容、審査プロセスを明確化していくことが重要です。
【等級の概要設計(イメージ)】
評価の概要設計
評価の概要設計では、社員を動機づけ、方向づけるために何を評価すべきかを検討します。
例えば、以下の例では社員が生み出す成果を評価する仕組みとして「貢献度評価」を、成果を生み出すために必要な能力発揮を「行動評価」として設計する場合のイメージを示しています。
「貢献度評価」では、能力を発揮して具体的にどのような貢献を行ったかを評価します。
「行動評価」では、より高度な(幅広い)貢献を行えるようにするために行った能力向上の取組みを評価します。
【評価の概要設計(イメージ)】
月給・賞与(報酬)の概要設計
報酬の概要設計では、報酬水準の設定を行います。
魅力的な報酬水準の設定により、上位等級への昇格インセンティブを喚起します。仕事の価値に見合う報酬水準の設定は、優秀人材のリテンションや採用競争力の向上にも有効だと考えます。
【報酬の概要設計(イメージ)】
3.詳細設計
ここでは、概要設計で策定した原案をもとに詳細設計を行っていきます。
3-1.等級制度
等級制度の詳細設計は、等級の決定基準の設計、昇格降格運用の決定、新等級への仮格付けを行います。
3-2.評価制度
評価制度の詳細設計では、評価基準の設計、評価表の設計、評価調整方法の設計を行います。
3-3.報酬制度
報酬制度では、月給・賞与テーブルの設計、月給・賞与シミュレーション、調整措置の設計を行います。
月給・賞与テーブルの設計
ここでは、報酬体系、制度設計の考え方、報酬水準の設定、評価と賞与の連動性、報酬水準・カーブのポリシーの設定などを行います。
報酬体系
月給・賞与の位置づけを明確にし、社員が「どうすれば報酬が上がるのか」をシンプルに理解できるように設計します。
報酬制度の考え方
月例給の大部分を占める基本給は、等級によって一定の幅で決定します。(一定の年数は昇給あり)賞与(個人業績賞与)は、等級別に適切な評価係数を設定し、メリハリを持たせます。
報酬水準の設定
適切な報酬水準を実現するため、公表資料をもとに報酬水準に関するベンチマーク調査を行います。(オプションとして、競合企業を対象とした詳細な報酬水準調査を実施することも可能です。)
評価と賞与の連動性
評価と賞与の連動を持たせるために、管理職層は、評価による賞与の分配にメリハリをつけます。一般職層は、定性的な評価が中心になると想定されるため、評価によるメリハリを相対的に小さくし、評価の精度が高まった時点で段階的に拡大していきます。
報酬水準・カーブのポリシーの設定
あるべき報酬水準/昇給カーブの考え方を設定します。実在者の給与水準や業界水準を踏まえて、等級ごとにどのレベルの報酬水準をターゲットとするか、昇給モデルを検討します。
アウトプットのイメージ
報酬制度の詳細設計では、月給・賞与に関するテーブルを設計します。(以下はテーブルのイメージです)
4.導入支援
導入支援フェーズでは、スムーズな人事制度の導入と定着に向けた支援を行います。
主に以下3つの支援を行います。
- 社員向けコミュニケーションプランの策定
- 処遇通知の作成支援
- 管理職向け評価者トレーニングの実施
4-1.社員向けコミュニケーションプランの策定-
社員に対して打ち出すべきメッセージを体系化・具体化し、必要なコミュニケーションツールを作成します。
4-2.処遇通知の作成支援
制度のスムーズな導入に向け、社員向けの個別処遇通知書の作成や規程類の改定に関するサポートを行います。
4-3.管理職向け評価者トレーニングの実施
評価者トレーニングを通して、管理職を対象に新しい人事制度の理解・浸透を図ると共に、目標設定や評価に関する一連のプロセスを習得します。