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SUMMARY

人件費シミュレーションとは、中長期的な視点で、経営へのインパクトを踏まえた効果的な人事の打ち手(業績見通しと合わせた人員・人件費計画や、社内の健全な賃金カーブを意識した持続的賃上げなど)を選択するために、今後の人員構成と人件費の成り行きと、人事の打ち手を講じた場合の効果を検証する人事マネジメント手法です。

人件費シミュレーション

人件費シミュレーションが求められる背景

一般に人件費は、組織において発生する最も大きなコストであることから、適切に人件費をコントロールすること自体が重要な経営課題であると言えます。

近年では人材を「人財」、人的資源でなく「人的資本」と捉えることが重要であり、人件費についてもコストでなく人への投資である、といった考え方が広まりつつありますが、人への投資を戦略的に行うための人件費コントロールという文脈でも、その重要性は今後一層大きくなっていくでしょう。

一方で、社会全体として持続的な賃上げへの要請が高まりつつある中、他社に後れを取らないための結論ありきの賃上げを実施してしまい、様々な負の影響が生じているケースもあるようです。

結論ありきの賃上げの例としては、生産性向上の道筋が不明確なまま、既存人材の引き止めや人材採用上の条件低下を避けることだけを優先した「見切り発車型」の賃上げや、「優秀な人材ならいずれ昇格するので問題ない」との安易な見通しのもと数年後の賃金カーブのゆがみに目をつむる「問題先送り型」の賃上げなどが挙げられます。

こうした賃上げを実施してしまうと、想定外の人件費上昇や、賃上げの恩恵を受けにくい中堅社員のモチベーション低下や離職といった様々な問題が近い将来発覚する可能性が高まります。

そもそも人件費は社員にとっての生活の糧でもあり、賃上げといえども社員感情を軽視して実施すれば、思わぬ副作用を引き起こすこともあります。総人件費や労働分配率を変えないように、特定の層だけ手厚く処遇するといった経営側の都合を重視した人件費コントロールをやりすぎた結果、一部の層では相対的にマイナスとなるといったひずみが生じ、労働法上の不利益変更といった法的リスクを生じさせてしまうケースもないとは言えません。

こうした賃上げや人件費コントロールによって生じる可能性のある負の影響を未然に防ぐうえで、将来の環境変化に対する複数の予測(シナリオ)を設定し、経営環境の変化に対応した人件費コントロールをどのように行っていくかを考える等、常に先を見据えた備えをしておくことが、経営環境の変化が激しい時代の人事部には求められています。

現状の人事制度のメカニズムの中で対応可能な人件費コントロール策を分析し、それらの対策を講じた時にどの程度の人件費コントロールが可能なのか(あるいは、現状の人事制度での人件費コントロールの限界はどこか)、将来の賃上げ余地がどの程度あるか等、戦略的・計画的な人件費コントロールを行うための人件費シミュレーションが求められるのです。

人件費シミュレーションの機能とメリット

1.現行人事制度の人件費コントロールの可能性と限界を把握

人件費シミュレーションをきめ細かに実施するメリットの一つは、現行の人事制度における人件費の増加要因とコントロールの可能性を具体的に把握でき、大幅な人事制度改革を行わずとも、人件費コントロールを可能にする方策を見つけ出せることです。

過去、シニア世代が定年を迎えることで浮く人件費を若い世代に回す、派遣社員等の非正規社員の比率を調整することによって全体の平均人件費単価の上昇を抑える、といった総人件費コントロールが容易だった時代もありました。

しかし、特に若年層を中心とした日本全体の人口減少や、より柔軟な働き方を志向した労働力のシフト等に後押しされる形で、過去通用した人件費の調整弁では融通できないほどの労働力不足が生じつつあります。

こうした労働力不足をシニア層で補うために、これまで賃金を大幅に引き下げていた定年再雇用層の賃金を大幅に引き上げることで、シニア層の定着または外部からの獲得を狙ったり、契約社員の正社員化、それに伴う人件費単価の大幅なアップにより人材の囲い込みやモチベーションアップにつなげようとしたりする動きが活発化しています。

このような状況下で、初任給や最低賃金など、給与水準が低い層の賃上げに対する社会的要請に対応しつつも、会社全体としての人件費上昇を回避するための現実解を見出すことが、まずは最低限必要となります。このための第一歩として、現在の人事制度における人件費の増加要因を詳細に把握し、実行可能な対策と効果を検証します。

当然ながら、現行人事制度の構造を大きく変えずに人件費コントロールを行うことには限界があります。しかし、現行の人事制度における人件費コントロールの限界が明確になれば、人事制度改革の必要性についての建設的な議論と認識共有を行いやすくなります。

人件費コントロール策を検討する場合には、現行人事制度で可能な人件費コントロール対策とその効果、および限界について、具体的に把握することが第一歩となります。

人件費シミュレーションのメリット_現行人事制度の人件費コントロール

2.中長期視点で効果的な人件費コントロール策を把握

日本の歴史ある企業の中には、新卒採用時は給与水準を低く抑え、管理職層に上がる40歳前後で大きく給与水準を引き上げ、定年までの間も緩やかに昇給させるといった、長期雇用を前提とした年功的な昇給カーブを採用している企業が多くあります。

これらの企業で、人材獲得を狙った初任給の引上げや最低賃金の上昇に伴う賃金アップが何度も必要になる場合があります。この際、許容できないほど大きな人件費の増加になってしまうことを避けるため、若年層は大きく賃上げする一方で中堅~上位層の水準は現状維持とするなど、世代間の賃金格差を縮小させることで、総人件費の上昇を抑えつつ賃上げ原資を確保する、といったことがしばしば行われます。

こういった打ち手は短期的には効果的であるように見えるかもしれませんが、新卒入社後中堅層に至るまで、給与がほとんど上がらない状態が長く続いた場合、中長期的には稼ぎ頭であり最も流出を防ぎたい中堅層のモチベーション低下や離職のリスクが増大するなど、深刻な副作用が生じる可能性もあります。

このような副作用を回避する施策の一例として、賞与原資の一部を賃上げの原資として月給水準を引き上げるという方法があります。

月給賞与間の支給割合の変更であれば、いくつかの前提をクリアすれば総人件費の上昇を一定程度に抑え、ベースアップを実現しながら昇給カーブは大きく変えないといったことが可能です。もちろんこれだけでは年収水準は据え置きに近く、単なる総人件費抑制のテクニックとなってしまいます。

しかし、全社の経営改革と合わせて、付加価値や利益率の上昇次第で賞与割合を徐々に元の支給割合に戻していく、ということであれば話は違ってきます。中長期的には昇給カーブを維持しながら全体の年収水準を引き上げることになり、社員のモチベーションアップやリテンションにつなげることができるでしょう。

このように、経営改革と連動させる形で総人件費アップの打ち手を考えることで、中長期的な人材の流出防止・育成促進・モチベーション維持の観点から、場合によっては短期的な人件費の増加も織り込んだ施策とすることも、現実的な選択肢となり得ます。

人的資本への投資の重要性がうたわれる近年において、中長期的視点での人材の獲得・育成とモチベーションの維持・リテンションは極めて重要な課題です。中長期的な人件費推移の見通しとコントロール方法が精緻に把握できていれば、目の前の人件費の増減に右往左往することなく、本当に効果的な人事施策の選択と意思決定を経営陣に提案することができるようになります。

人件費シミュレーションのメリット_中長期視点と人件費コントロール策の把握

クレイア・コンサルティングが提供する人件費シミュレーションの特長

1.各企業の人事制度を完全把握した詳細な人件費シミュレーション

クレイア・コンサルティングが提供する人件費シミュレーションは、より実践的な効果を出すべく、いくつかの工夫を取り入れています。

その第一は、企業毎に異なる人事制度の構造と人件費に影響を与える要因を網羅的に把握した、各企業にとって最適なシミュレーションを実施できることです。

人件費シミュレーションを担当するコンサルタントは、様々なパターンの人事制度を熟知しています。人事制度に関する規程や労働協約等を正確に読み解き、人件費に影響を与える要因を網羅的に把握したうえで人件費シミュレーションを構築しますので、各企業の人件費の構造や変動要因が的確に分析できます。

また、担当するコンサルタントは人事制度の運用にも長けているため、規程や労働協約等のルールだけでなく、人員・人件費データから読み取れる昇格・昇給の運用傾向やイレギュラー対応の発生に至るまで的確に把握し、シミュレーションに反映することができます。

人員増減や昇格・昇給の方針決定といった重要な経営的判断を的確に行うためには、精度の高い人件費シミュレーションが求められます。各企業の人件費の構造や、選択し得る打ち手についても、人事制度の構築・運用の経験豊富なコンサルタントが明快に解説いたします。

人件費シミュレーションの流れ
人件費シミュレーション_現状把握の3項目

2.複数の人事の打ち手(シナリオ)の効果を比較検証

クレイア・コンサルティングが提供する人件費シミュレーションは、企業の人員構成(年齢・等級分布)とその経年変化や、給与規定(昇格・昇給ルール等)をベースに、正社員/非正規社員の入れ替えといった人件費削減施策に伴う影響を考慮した上で、対象組織の今後の人件費の推移をきめ細かく分析し、予測することが可能です。

具体的には、現行の人事制度に適合したシミュレーションパターンを想定して各種パラメータを用意し、複数条件に基づいてシミュレーションを実施できます。

例えば、人員数について、「増やす(新卒採用を○人)」、「現状維持(退職者分のみを新卒採用)」、「自然減(退職者の補充なし)」などの条件でシミュレーションすることが可能です。シミュレーション結果は複数シナリオに基づき、総人件費だけでなく、等級別人件費、年齢別人員構成など多様な形態で出力でき、人件費の長期的推移を多面的に把握できるようになっています。

現行人事制度に適合したシミュレーションパターンに基づくパラメーター

3.各企業の人件費構造を踏まえた効果的な人件費コントロール施策を提言

ある人事施策が、人件費の増減にどのような影響を及ぼし得るのかを的確に分析するためには、人件費変動の構造を熟知していることが必要です。

例えば、人件費を抑制するために派遣社員 の契約を解除する場合、当然ながら派遣費用は低減されますが、契約解除された派遣社員が行っていた業務は今の社員が代替することとなります。その結果、社員が残業をせざるを得なくなり、その分の残業代が発生すると同時に、残業代を含めた賃金の増加によって、保険料の算定基礎が上昇し、残業代増加分の法定福利費 (雇用保険料、労災保険料、健康保険料、厚生年金保険料など)も併せて増加する可能性がでてきます。

このような人件費の相互作用を正確に見極め、その影響を検証することが、人件費の推移を見ていく上では重要となります。人件費シミュレーションを担当するコンサルタントは、人材フロー コントロールや人件費生産性向上などのプロジェクト経験も豊富です。一見有効と思われる人件費コントロール施策が、実際にどのような影響をもたらす可能性があるのか、その効果と副作用を的確に分析して提言します。

人件費構造の把握_人件費相互作用

人件費シミュレーションを導入する際の流れ

1.人件費構造の分析

人件費に関連する規程や労働協約、および社員データ(人員構成、人件費水準)を網羅的に分析し、企業の人件費構造(変動のメカニズム)を網羅的に把握します。

規程や労働協約と社員データを比較し、規程外の運用やイレギュラー対応が行われている場合には、その背景の聞き取りを行い、シミュレーション上で考慮すべきかどうか検討します。

この段階で、現行の人事制度において実行可能な人件費コントロール策をリストアップします。

2.シミュレーションのシナリオの設定

シミュレーションによって、どのような人件費コントロールの選択肢(シナリオ)と効果を検証するのかを検討します。

例えば、下記のようなシナリオ設定が想定されます。

  1. 採用人員数(新卒・中途)の増減による人件費への影響
  2. 中途退職(アウトフロー)の促進による人件費への影響
  3. 昇格率の増減による人員構成と人件費への影響
  4. 昇給率の増減による人件費への影響
  5. 給与テーブルの上下限の変更による人件費への影響
  6. 賞与の支給率変動による人件費への影響
  7. 諸手当の増減による人件費への影響
  8. 正社員を非正規社員に切り替えることによる人件費への影響
  9. 非正規社員の削減による人件費への影響
  10. 定年後再雇用の処遇条件変更や再雇用率増加による人件費への影響

シナリオは、人件費コントロールが必要な背景や、コントロールしたい人件費の大きさなどを踏まえて設定します。

3.前提条件の整理

シミュレーションのシナリオと精度に応じて、適切な前提条件を設定します。

例えば、今後の傾向や趨勢を把握するためのシミュレーションであれば最低限の前提条件に絞る、人件費管理のための精緻なシミュレーションであればできる限り前提条件に反映させるなど、適切な検証を行うために柔軟に前提条件を定めることができます。

まず、計算範囲と人件費増減ルールを整理します。計算範囲には算出対象者や算出対象項目、人件費増減ルールには評価・昇降給・昇降格ルール等があります。

次に、対応しない事項の整理を行います。シミュレーションの計算方法に反映させない内容や、固定値で計算する内容を明確にします。例えば、シミュレーション上は降格や制度変更を反映させない等があります。

上記以外にも、用語の意味や慣行などで固有のものや特殊なルール等、シミュレーションの計算方法に影響する内容を洗い出し、定義しておくことで、認識のずれや計算方法の誤りを防ぎ、正確なシミュレーションの作成ができます。

4.算出方法の定義

対象者区分ごとに算出項目とその算出方法を整理します。

単年度の算出方法

対象者区分ごとに算出対象項目を整理したら、算出方法の詳細を定義します。規程類に定められている場合はその内容に沿った算出方法とし、賞与や手当などは支給実態を分析して算出方法を決定します。

単年度人件費算出方法

シミュレーション開始翌年度以降の算出方法

長期シミュレーションの場合は、開始年以降の昇格を踏まえた算出方法を定義します。下図のイメージでは、開始年と開始年以降を比較し、翌年以降のシミュレーション対象者の特定と、昇格をシミュレーションに反映させる方法を定義しています。

シミュレーション開始翌年度以降の人件費算出方法

5.シミュレーションファイルの作成

定義した算出方法に基づいてシミュレーションファイルを作成します。

シミュレーションファイルでは、シナリオとして操作したい部分をパラメータ入力欄として設定し、シナリオを変動した際の効果を即座に検証できるようにします。

また、シミュレーション結果をわかりやすい表やグラフで参照できるようにします。

人事シミュレーションファイル_効果の検証

6.シナリオ検証と報告

当初想定したシナリオの検証結果をわかりやすく解説いたします。

当初想定したシナリオでは、望ましい人件費コントロールが実現できない場合には、人事制度の変更を含めた代替策を提言します。

シミュレーションファイルは当初想定したシナリオ検証と報告後、人事担当者が操作できるように操作方法を説明したうえで納品します。自社内で継続的に人件費シミュレーションを行うことが可能です。

人件費シミュレーションレポートイメージ_等級別人員構成分析
人件費シミュレーションレポートイメージ_年齢別人員構成分析
人件費シミュレーションレポートイメージ_人材流出圧力分析
人件費シミュレーションレポートイメージ_人件費総額/費目別分析
人件費シミュレーションレポートイメージ_人件費配分分析
人件費シミュレーションレポートイメージ_人件費コントロール分析
人件費シミュレーションレポートイメージ_人件費上昇圧力分析
AUTHOR
針生 俊成
針生 俊成 (はりゅう としなり)

クレイア・コンサルティング株式会社 執行役員COO マネージングディレクター
筑波大学第二学群人間学類卒業

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセンを経てクレイア・コンサルティングの立ち上げに参画。
幅広い業種における統合的人事制度改革、コンピテンシー設計、人材アセスメント、人材育成、意識改革、ES(従業員満足度)向上等、多数の人事コンサルティングプロジェクトに従事。合併や分社等の組織再編に伴う人事制度改革、高度専門職の人事制度設計やコンピテンシー設計、ブランドマネジメントと連動した人材マネジメントのコンサルティング等の実績も豊富。

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