人材ポートフォリオが生まれた背景
日本企業は、高度経済成長期以来、男性を中心に勤務地を問わずあらゆる業務を行いながら管理職へと昇進していく総合職的人材と、女性を中心に勤務地や業務が限定され、家庭の事情などで早期に離職していくことの多い一般職・業務職的人材の2つのタイプで形成されてきました。この形態は経済が安定的に成長していく中、男性が一家の大黒柱として家計を担い、女性は就業後に退職して家庭に入り専業主婦として子育てを行うというライフスタイルともマッチしており、当時は特に大きな問題は発生していませんでした。
しかし、1985年の男女雇用機会均等法の施行以降の女性のさらなる社会進出の高まりや、バブル崩壊などの経済の失速により、総合職に女性も参画していく一方、総合職の社員が安定的に昇進・昇格をしていくことが難しくなっていきました。さらに労働者派遣法により正社員以外の人材もリソースとして活用が進み、やむにやまれず派遣を選択する人や、自身のライフプランの一環として柔軟な働き方を選ぶ人など、人材のキャリア感、業務量、職務能力、契約形態などが多様化し、現在に至っています。
このような中、企業は人件費の効率性を上げつつ継続して高い成果を上げていくために、よりきめ細かく人事マネジメントを行っていく必要性に迫られています。昨今は限定正社員や遠隔地勤務制度の導入などにより、さらに多様な人材が企業の中に混在していくことが予想されます。それぞれの人材タイプに合った働き方や処遇を設計していき、それらを組み合わせることによって全体最適を実現していかなければなりません。
現在の組織における人材のタイプを整理しつつ、今後の動向を見極めながら、各社の経営環境や事業戦略に合致した人材タイプの最適な組み合わせとそのマネジメント方法を策定していくことが、今求められています。
人材ポートフォリオの機能とメリット
1.最適な人材配置
人材ポートフォリオ分析を実施するメリットの一つは、事業の特性や個人の志向に合わせて、業務内容に最適な人材を配置することが可能になる点です。
組織を構成する社員はそれぞれ強みや弱み、キャリアの志向などが異なるため、事業の構造が単純であったとしても画一的な運用では無理や無駄が出てしまいます。現在、そして今後の事業展開上どのような業務形態に対してどのような人材が必要なのかを洗い出し、それぞれの人材モデルに合致した社員を業務にアサインしたり、研修やローテーション、人材アセスメントなどで適性を見極め、新たな業務にチャレンジさせたりすることにより、効果の高い人材育成が可能になります。その結果、事業に適合した人材が高い成果を出すという好循環を生み出すことが出来るのです。
単一モデル | ポートフォリオモデル | |
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メリット |
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デメリット |
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2.人材余剰/人材不足のマネジメント
また別のメリットとして、経営側が人材の配置状況を把握することにより、人材余剰/人材不足を適切にマネジメントできる点があります。
人材ポートフォリオを設計することによって、それぞれの人材タイプがどれくらい存在するのかを把握することが可能となります。そして、ある人材タイプが不足している場合はどのタイプを強化することによってその人員不足を解消するのか、調達の方法として外部から招聘するか、事業運営上過剰となっている人材タイプをどの人材タイプに移行させるか等について、様々なオプションを検討しながら要員管理を行っていくことが可能となります。
クレイア・コンサルティングが提供する人材ポートフォリオの特長
1.各人材タイプに即した人事制度の設計・導入
クレイア・コンサルティングが提供する人材ポートフォリオ設計は、実際の効果を確実に創出するために、いくつかの工夫を取り入れています。
一点目は、それぞれの人材タイプの特性を詳細に規定し、それに即した人事の各制度を設計・導入していることです。
従来の人材ポートフォリオ管理においては、雇用形態別や担当職/管理職の2つの区分など、大まかなくくりで人材タイプを区分することが多かったのですが、それではそれぞれの人材タイプごとの能力開発や組織全体での人材の整合性を取ることが難しく、現有人材を最大限に活用する上では困難が伴います。
クレイア・コンサルティングでは、各社の事業戦略やビジネスモデルに基づいて、組織の中でどのような人材がどのような役割を果たすことが期待されているかを構造的に整理し、各人材タイプの位置づけを明確にしたポートフォリオを作成します。そしてそれぞれの人材タイプごとに、雇用形態だけでなく、想定される人員数、評価や処遇、採用や育成に関する方向性を規定し、最適な採用・育成・配置・評価・報酬等の在り方まで提言し、実際に導入・運用まで行っていきます。
2.人材モデル間の柔軟な変更が可能
二点目は、人材モデル間の転換に柔軟に対応できるよう設計を行うことです。
経営環境が大きく変化する中、個人の側でも望ましいキャリアの行く末をその時々で大きく変更していく時代になりました。企業側も、環境変化に合わせて事業を再構築することが増え、それに応じて個人に求める役割も様々な変更を余儀なくされます。昇格・昇進や異動といった等級や役職、部署の変更だけでなく、M&Aや組織再編などにより事業規模が大きく変わったり、役職の統廃合などでポストに就かない管理職も増えたりするなど、キャリア・パスには従来以上に柔軟性が求められます。従来の担当職から管理職へと成長するだけのモデルでは対応できなくなっているのが現状です。
クレイア・コンサルティングが人材ポートフォリオを設計する際には、様々な事態に柔軟に対応できるよう、人材モデル間の転換や、人材モデル内での報酬の昇降などについて、運用に耐えうる設計を行っていきます。等級、評価、報酬の各制度との整合性を図りつつ、人材モデル間の関係性を規定し、より事業運営に利するポートフォリオの組成を行います。
3.あるべきポートフォリオ実現のための方策提言
三点目は、人材ポートフォリオを策定した後の、あるべきポートフォリオ実現のための方策を提言、立案できることです。
人材ポートフォリオを設計したとして、当初の目論見通りに人材が配置できるケースは極めて稀であり、事業戦略に合致した人材体系を整備するには一定の時間が必要となります。社員によっては職種や働き方などを大きく転換する必要も出てくる可能性がありますが、その社員のモチベーションが下がらないように配慮をしたり、必要な研修を受けさせたりといった施策が必要です。
クレイア・コンサルティングでは、これまでに培った人事マネジメントの様々な手法を駆使し、採用の促進だけでなく、各人材モデルにおけるインフロー(人の参入)の抑制や、アウトフロー(人の退出)の促進など、人材モデルの形成に必要な施策を設計・導入し、着実な運用を行っていきます。
人材ポートフォリオを導入する際の流れ
1.人材の需給と将来ニーズの現状分析
1-1.人材需給ギャップの分析
- 現在配置されている部門別の社員数を基に、おおよその事業分野(マーケット・商品)ごとの配置人員数および不足人数(=組織ニーズ)を算定する。
- 自己申告書等のキャリア希望のデータを参考に、事業分野ごとの希望人員数を算定する。
- 希望人員数から配置人員数を差し引き、事業分野ごとの人材需給のギャップを簡易的に計算する。
1-2.将来性・重要性の高い事業分野の分析
- 経営幹部同士の議論を通じて、各事業の将来性・重要性を以下の視点から評価(ポイント化)し、コアとなる事業分野に優先順位を付ける。
(1)戦略実現にあたっての重要度
(2)将来的な市場の成長率
(3)競合に対する優位性
1-3.事業分野ごとの人材確保・育成にあたっての課題の分析
- 事業分野ごとの「将来性・重要性」と「人材需給GAP」をマトリクスで整理する
- マトリクスで整理した象限ごとに想定される人材確保(育成)の課題と必要な対策を分析する。
【象限1「現状維持」】
人材の供給と事業の成長性がバランスしており、人材の量的な確保・育成にあたっての問題は少ない。成長戦略の軸となる事業分野であるため、人材の質の向上と競合との差別化が強く求められる。
【象限2「重点投資」】
事業の成長に対して人材の供給が不足しており、人材の確保(育成)に向けて採用・配置・育成施策を強化することが求められる。
【象限3「選択投資」】
事業の成長性は低いが、人材の供給も不足している。内部で育成することが困難な場合が多く、外部から専門性を持った人材を採用することが適切である場合が多い。個々の事業分野ごとに事情が異なるため、個別に精査が必要。
【象限4「縮小」】
事業の成長性は低いが、人材の供給が余剰であり、将来的に人的資源の有効活用という点で問題が発生することが予想される。再配置や再教育を通じた人材活用施策を検討することが求められる。
2.人材カテゴリー分類と必要なスキルセットの定義
2-1.重点的に確保(育成)すべき人材カテゴリーの定義見出し
- 自社のコアとなる事業領域を特定し、事業運営に必要な一連の組織活動(バリューチェーン)を描く。
- 一連の組織活動を担える人材を単一または複数の人材カテゴリーとして設定する。
- 人材カテゴリーごとのキャリアゴールと中核となる専門性の組み合わせを定義する。
2-2.人材カテゴリーごとのスキルセットの定義
- 人材カテゴリーごとに、標準的な業務プロセスを洗い出し、業務プロセスを遂行するために必要となる知識・技能・能力(以下、スキル)を具体的に抽出する。
- スキル項目別に発展段階(レベル)を想定し、レベルごとの要件を具体化する。
上図のように、特に新しい事業の場合には、複数の専門性を持った異なる人材が分業・協業して価値を創出する場合が多い。このようなケースでは、どのカテゴリーにも共通して求められるスキル項目が多いが、その持ち方(深さ・広さ)のバリエーションは複雑になる傾向がある。
3.スキルセットの人事制度・教育制度への展開
人材カテゴリーごとのスキルセットを人事制度や教育制度にどのように活用するかを検討する。活用のパターンには次のようなものがある。
- キャリア開発を支援するためのコミュニケーションツールとして活用する。部下が将来のキャリア開発の見通しを持ち、具体的にどのスキルを高めればよいかが理解できるように、定期的なスキル充足度のチェックと重点課題の確認を行えるようにする。
- 等級の「昇格」と紐づけることで、ステップアップに対するモチベーションを喚起する。このケースでは、昇格の要件と審査方法(誰が何を根拠に認定するか)をつくり込む必要がある。
- 人事評価の項目の一つとして活用することで、スキルの蓄積・発揮に対するモチベーションを喚起する。このケースでは、優秀者と非優秀者の「違い」が表れやすい行動のポイントや場面を明確にすることで、育成的メッセージが効果的に伝わるような工夫が重要である。
- 教育研修プログラムと紐づけることで、何をどのように学べばよいかを明確にし、成長への期待感を醸成する。スキル項目ごとに、「どうやったら学べるのか(OffJTで学べること/OJTで学ぶべきこと)」を具体化することが求められる。