M&A・組織再編におけるPMIとは
PMIとは、「Post Merger Integration(ポスト・マージャ―・インテグレーション)」の略称であり、統合後に実施される「経営・組織の融合・一体化」を指します。売り手と買い手の間でM&Aに関する最終合意が締結された後、対象となる企業や事業が買い手に帰属した段階から正式なPMIがスタートします。
一般的にM&Aにおける最終契約書の締結日(クロージング)を「Day1」と呼びます。
これに対し、買収先企業のガバナンスを確立し、事業を安定稼働させるための重要な期間として、Day1から3カ月間(100日)を「Day100」(100日プラン)と呼びます。
かのGEのジャック・ウェルチも「買収後100日以内に、買収先企業に自分たちのやり方を浸透させなければ、買収は絶対にうまくいかない」と語っていました。それほどまでに、PMIはM&Aや組織再編を成功裏に導くための重要なカギとなります。
当然、M&Aでは、経営統合を果たしたらそれで終わりではありません。そこから先が圧倒的に重要な「舵取りの期間」となり、経営統合から100日を経過した後もPMIの取組みは数年間に渡って続きます。
PMIを進めていく上での課題
Day1を迎えるまでのフェーズ(Pre-Merger)においては、ある程度形骸的・形式的であったとしても、両社が同じ船に乗って無事スタートを切れるよう、統合後の組織や最低限の社内ルールを1つにまとめていくことに重点が置かれます。(1つの組織内に複数の制度を走らせる場合もあります)
しかし、PMIフェーズでは、より目に見える形での成果を生み出していくために、現実的かつ実効性のある取組みや施策を講じていくことが最も重視されます。
言わば、Day1までのフェーズは「結婚式」(=統合)です。ここでは準備に多くの時間が割かれます。次のPMIフェーズでは、「結婚後の生活を現実的にどのように進めていくか」(=融和)について議論を尽くすことになります。そして、いよいよPMIを進める、という局面を迎え、「どうしても避けがたい課題」に直面することになります。
当社が2019年に実施した、M&Aを経験した大手企業20社の人事責任者向けヒアリング調査では、「合併後に実施した主な人事施策」(PMIフェーズにおける人事施策)として、「経営陣からの継続的なメッセージの発信」「新会社としての行動規範の策定」などの施策が挙げられました。
【PMIの人事施策】
PMIフェーズの特徴的な課題
しかし、PMIフェーズならではの課題も存在します。
- 【課題1】
経営統合直後は、今後の統合会社としての方針・方向性を決定する十分な情報が、揃っていない。また、統合会社の経営陣にとっても適切な判断を下しにくい。 - 【課題2】
スピーディーに対処しなければならない課題が山積している。にもかかわらず、統合直後は多くの場合、組織内の意思決定プロセスが十分に整備されていない。そのため、様々な課題をスピーディーに解決したり、課題の優先順位付けを行ったりすることが難しい。 - 【課題3】
現場の従業員は、従来の業務を進めつつ、同時に経営統合する相手側の業務内容を理解しながら新会社の業務プロセスを構築していく必要に迫られる。そのため、現場の負担が増大する(但し、最初からどちらか一方の業務の進め方に片寄せ・一本化することが明確な場合はこの限りではない。)
PMIフェーズでは、こうした課題に対して、スピーディーなアクションをとりながら「現実的な効果」を早期に生み出す必要に迫られます。
PMIを効果的に進めるためのポイント
以上のことから、PMIを効果的に進めていくためには、次の3点が重要となります。
- 統合前から組織・人事面でのPMIの方針と計画を予め立てておく
- PMIフェーズにおいて迅速に経営判断を下せるように意思決定プロセスを明確にしておく
- 現場の業務運営上の混乱を最小限に留めるため、業務運営に関わる方針を矢継ぎ早に提示していく
クレイア・コンサルティングのPMI支援
PMIフェーズにおける組織・人事関連の主な支援内容は以下の通りです。
特に、以下5つの人事施策はPMIフェーズにおいて特に重要です。
- ①
新たな組織体制の運営と人事異動を通じた人材交流の促進
- ②
人事制度の運用を通じた評価者間の目線合わせと新処遇の決定
- ③
統一研修プログラムの企画・実施を通じた価値観・スキルの強化
- ④
意識調査やワークショップ等を通じた組織風土・企業文化の融合
- ⑤
人材アセスメントの実施を通じた次期リーダー人材の選抜・育成
統合直後は、時間をかけて両社の従業員の能力・スキルを比較し合い、目線合わせを行うことは困難です。しかし、能力や適性に基づく人材配置が行われず、一方の会社の人材だけが優遇されるような状況となれば、統合後も禍根を残します。
PMIフェーズにおいて統合会社の経営陣が実践すべきこと
そのような状況を回避するためには、次のような取り組みが重要です。
- 統合後の新たな組織が目指す基本方針や価値観を早期に言語化し、経営陣や管理職が様々な場面や機会を通じて統一メッセージを発信し続ける
- 新たな企業文化を実践・体現できる管理職を公正な基準で選び、統合会社の重要ポジションに配置する
- 統合直後から人事異動を積極的に促進し、旧社の垣根を取り除く
M&Aや組織再編後の企業文化の融合は、一朝一夕には実現できません。
どちらの従業員にとっても「フェアなプロセス」「公正な人材配置」と思える人事は必要不可欠です。そのための施策として、外部の人材アセスメント活用する方法があります。
PMI支援における「従業員意識」「従業員感情」への働きかけ
クレイア・コンサルティングでは、数々のPMI支援の経験から、PMIフェーズにおいて従業員の意識をいかにポジティブな方向に変容させていくかが重要であると考えています。
当社は、2016年にM&Aを経験した従業員、特に買収された側の企業で働いていた従業員を対象に、「M&Aに遭遇した従業員は、どのような感情を抱き、更にその後どのような行動を取ったのか」について調査を行いました。その結果、被買収企業の従業員の4割以上がM&Aの発表時に転職を検討し始め、M&Aが実施された後数年以内に3割の従業員が退職していた、ということが明らかになりました。
統合直後で不安を抱える従業員に対し、早期に「連携・協働」の意識を抱いてもらい、統合組織としての融合・一体化を図っていくことがPMIフェーズの肝と言えます。
一般的にDay1直後は、新経営陣から従業員に対し、経営統合後のビジョンや今後の事業計画に関する情報が発信されます。その際、相対的に売上や組織の規模が小さい側の従業員たちは、「これから自分たちの業務はどうなってしまうのか」「自分たちの処遇は維持されるのか」といった不安を抱くでしょう。
こうした不安を早期に払拭(ふっしょく)できなければ、最悪の場合はキーパーソンの離職を招くことさえあります。多くの場合、不安は不満に変わっていきます。こうした不満は表立った反発という形で現れず、やがて暗黙の抵抗や面従腹背といった形で現れます。このような表面化しない不満や抵抗は、統合後の融和において大きな障害となります。
従って、経営陣は出来るだけ早期に明確なメッセージを発信し、従業員の「不安」を解消しなければなりません。「不安」を抱える従業員に対し、「新しいルールを理解し、慣れていくまでのステップとスケジュール」を提示し、「見通しを持たせること」「今後の展望を与えること」は、経営陣としての責務です。
また、PMIフェーズでは、管理会計や業績管理システム、業務プロセス、勤怠管理システムなどの新たな仕組みやルールが次々と導入されるため、従業員側も慣れない作業に負担を感じやすくなります。
ここでも、従業員に対して「以前の職場で慣れ親しんだ業務のやり方に固執することなく、両社の強みを生かした新たな仕組みやルールのもと、統合会社として一体となって事業を進めていく」という理念や価値観を伝え、新しい業務のやり方を少しずつ受け入れてもらう必要があります。
このように、クレイア・コンサルティングでは、PMIフェーズにおける個々の人事施策が、「経営統合直後の従業員たちに、どのようなメッセージとして受け止められるのか?」という点を十分考慮し、各施策の内容、導入時期、導入方法を慎重に検討するアプローチを行います。
人事制度統合シナリオからコミュニケーションプラン策定までの具体的なプロセスは、「M&A人事(M&Aに伴う人事統合)」をご覧ください。