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会社分割とは

会社分割とは、M&A・組織再編時の手法の一つで、会社が事業に関して有する権利義務の一部もしくは全部を分割して、他の会社に承継させる手法のことです。

2001年の商法改正により、会社分割制度が整備され、事業の分割が行いやすくなりました。事業を分割する主な目的は、業種業態に適したマネジメントの追求、成長事業の分離独立、事業売却等です。

事業を分割する方法には「新設分割」と「吸収分割」があります。

  1. 「新設分割」とは、新設した企業に分割事業の権利義務を移す方法
  2. 「吸収分割」とは、既存の企業に分割事業の権利義務を移す方法

いずれも分割後に人事の統合が行われます。

分割時の人事諸制度

会社分割における人事課題

会社分割で事業を分割する際、一部の社員が別の企業に転籍することになります。通常、転籍には従業員の個別同意が必要となりますが、会社分割制度を活用した事業分割の場合は、労働契約承継法(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)に従って分割前の労働条件を包括的に承継するため、個別同意の手続きをとらずに事業を分割することが可能です。

しかし、労働契約承継法による分割手続きは、事業分割の目的達成の観点からいくつかの課題が残ります。
まず、業種業態に適したマネジメントの追求が目的である場合、人事諸制度も業種業態に適した内容にすることが必要です。例えば、給与水準を職種別の外部労働市場水準に合わせて中途採用の競争力を高める、評価基準や昇格基準に業種特有の要件を反映する、固定給と変動給の割合を変えて社員のモチベーションを高める、等の工夫が必要となります。また、事業売却を目的とする場合、人事諸制度を変更できないことが売却先との交渉で障害となることもあります。

社員の同意を得られるならば、会社分割制度を活用して人事諸制度を変更することは可能です。ポイントは、分割後の明確な事業ビジョンと社員のコミットメントを強化することです。例えば、分割前には実現できなかった抜擢昇格制度の導入、業種業態に適した勤務体系や教育制度の整備、業績連動型の賞与制度の導入など、分割された社員が「移籍してよかった」と実感できる施策が必要です。また、事業を分割した後は一般的に企業規模が小さくなるため、キャリアの選択肢を狭めないよう、グループ会社間のローテーションや幹部人材向けの登用制度を整備しておくことも必要となります。

会社分割後の人事統合の流れ

会社分割後の人事統合は以下のような流れで検討します。

  1. 現状分析
  2. 人事統合シナリオの設計
  3. 人事制度のグランドデザイン
  4. 等級・評価・報酬制度の統合
  5. 労働条件・福利厚生の統合
  6. 社員へのコミュニケーションプラン

1. 現状分析

このステップでは、統合対象の各社の人事の現状を詳細に把握・分析します。

2. 人事統合シナリオの設計

人事統合シナリオとは、組織統合に際して、その統合効果を最大化する観点から、人事リスクを効果的に回避・軽減しながら、人事(処遇、人材フロー、社員意識)統合を進めるための方針とステップを定めるプロセスです。
下図のように、想定される統合シナリオそれぞれについて人件費リスク、モチベーションリスク、法的リスク、運用リスクを検証し、統合効果と統合スピードを最大化するシナリオを選択します。

人事リスクを考量した統合シナリオの選択

3. グランドデザインの設計

「グランドデザインの設計」では、会社分割後の新組織の方向性を踏まえて、新人事制度の全体像を構築します。ここで重要なのは、人事諸制度全体を一貫した考え方に基づいて整合性ある形で構築することです。つまり、等級・評価・給与・賞与といった基幹人事制度だけでなく、人材フローの仕組み(採用・異動)、退職金・年金や福利厚生、労務管理制度、教育体系などに関する検討も欠かせません。

4. 等級・評価・報酬制度の統合

等級制度の統合

このステップでは、新しい等級制度を構築し、旧等級から新等級への移行方法を検討します。等級移行の考え方は、大きく分けて下記の3パターンがあります。

  • 旧等級は考慮に入れず、ゼロベースで新等級を決定

  • 旧等級と新等級の対応表を設定し、移行

  • 旧等級をベースとしながらも、境界線にある対象者のみ審査を行い、新等級を判断(下図)

旧等級をベースとした新等級の決定方法

①は、等級移行に相当の労力がかかること、および会社分割後間もない組織で目線を合わせて新等級を決定することが非常に難しいです。
②は、対応表を合理的に設定することができれば、最もスムーズに等級移行が可能です。ただし、合理的な対応表を設定するためには、旧組織の等級定義と昇格運用について詳細に分析を行い、実態を踏まえた対応関係を設定しなければなりません。
③は、①と②の組合せになります。一定の基準を設定し(例えば「課長級」の在級年数が5年以上で直近3年の評価がA評価以上、など)、その基準に該当する対象者のみ、新等級の定義に照らし合わせて審査(試験、レポート、面接、など)を行います。

評価制度の統合

このステップでは、新しい評価制度を構築し、会社分割前の各組織の評価制度(評価基準等)との違いを整理して、評価者の意識改革の方法を検討します。評価基準や評価プロセスだけでなく、評価調整の考え方や評価フィードバックなど運用の考え方についても、会社分割前の組織毎に考え方が異なっていることが通常です。つまり、異なる評価基準や評価プロセスに慣れている評価者の目線や考え方をどうやって統合していくか、ということを検討することがこのステップで最も重要なことです。

例えば、新しい評価制度で「成果評価」という仕組みを構築しても、「成果」の意味合いが会社分割前の組織毎に異なる場合(例えば旧A社では成果とは結果のみを意味し、旧B社では成果にはプロセスも含まれると定義されている、等)、このままでは適切な評価が行われない可能性があります。

新しい評価制度を構築したら、評価の仕組みと用語定義について、会社分割前の各社の仕組み・用語定義と比較整理する一覧表をつくり、会社分割前の各組織の評価者が、それぞれ「何が変わるのか」を具体的に理解できるように提示していくことが効果的です。

報酬制度の統合

このステップでは、新報酬体系(給与・賞与の体系)を構築し、各社員の給与・賞与を新報酬テーブルに載せ替えます。そして、各社員の給与・賞与が新報酬テーブルの枠内に収まらない(新報酬テーブルよりも高い・低い)場合に、その差額をどのように処理するかを検討します。

各社員の給与・賞与が報酬テーブルよりも低い場合には、その差額を会社分割時に埋める(給与を上げる)のか、段階的に埋めていくのか(例えば昇給額を2倍にする、など)を検討します。

また、各社員の給与・賞与が新報酬テーブルよりも高い場合は、その差額を調整給として支給するか、調整給を段階的に減らしていくべきか、等を検討します。(給与は調整給の対象とし、賞与は調整給の対象としない、など多様なパターンが想定されます)

このような差額処理の方法検討にあたっては、会社分割前の各組織での給与・賞与決定の過程をよく把握しておくことが重要です。特に、調整給の検討を行う場合には、不利益変更に該当する場合ですので、法的リスクの観点から慎重に対応を検討する必要があります。

5. 労働条件・福利厚生の統合

このステップでは、労働時間・休日・休暇などの勤務ルールの一本化を図ります。この労働条件の統合に際しては、規程(ルール)の統合にとどまらず、各職場の運用実態の統合を図っていくことが極めて重要です。例えば、残業時間の承認プロセスや有給休暇の取りやすさが職場(あるいは統合前の各組織)毎に異なると、実態として労務管理が統合されたことにはなりません。このように実態に差がある状態が放置されると、法的リスク(サービス残業問題など)やモチベーションリスク(職場間の不公平感、異動拒否など)を高めることになります。

6. 社員へのコミュニケーションプラン

このステップでは、新人事制度を社員に前向きに理解してもらえるようなコミュニケーションプランの基本スケジュールを検討します。特に人事統合の場面では、社員の出身組織によって新人事制度に対する受け止め方や理解度が大きく異なることが想定されます。会社分割後の意識統一と一体感を考えると、新人事制度について統一的な説明を行っていくことも重要ですが、理解・浸透を着実に図っていくという観点からは、出身組織別の説明会や説明資料を準備した方が効果的です。

例えば、ある企業統合の場面では、人事制度ハンドブック(説明資料)を2部構成とし、第1部は全社員共通の内容(新人事制度の解説)、第2部は出身会社毎に異なる内容(旧人事制度との違いの解説)として作成・配布するなどの工夫を行っています。

AUTHOR
桐ヶ谷 優
桐ヶ谷 優 (きりがや まさる)

クレイア・コンサルティング株式会社 執行役員COO マネージングディレクター
慶應義塾大学文学部卒業

大手人材派遣会社および外資系コンピューターメーカーの人事部門にて、人材開発や人事制度設計に携わる。その後、国内系人事コンサルティング会社を経て現職。
主に人事制度改革を中心にコンサルティングを行う。最近では、企業再編に伴う人事制度改革や組織改革に従事。また、制度設計だけでなく、人事制度導入局面でのコンサルティング経験も豊富に持つ。

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