女性活躍推進の現在
日本は、少子高齢化に伴い2011年以降、人口減少社会に突入しており、労働力人口が今後大幅に減少していくことが予測されています。
このまま労働力人口が減少しつづけると、我が国の経済や成長が失われ、企業の「人手不足」が深刻化し、事業継続への危機的状況に陥る可能性があります。
このような状況の中、企業は多様な人材の能力を活かしていくことが大きな経営課題となってきます。そんな中、期待されるのが「女性」です。従業員数301人以上の企業に対して、女性活躍の情報公開が義務づけられるなど、女性の活躍推進に関する動きが活発になっています。近年、労働市場における女性の活躍は、以前に比べると進んではきましたが、日本の女性の労働力率は欧米諸国に比べて低い傾向で、今後の人口減少を考えると、女性活躍推進を更に推し進めていくことが必要となってきます。
2013年に安倍政権がアベノミクスの第三の矢である成長戦略の一つとして、「2020年までに指導的立場に就く女性比率を30%にする」としていました。
しかし、2018年現在、日本の就業者及び管理職に占める女性の割合は約15%に留まり、アメリカ(41%)やイギリス(36%)、フランス(35%)など他の先進国と比べても低というのが現状です。 (*1)
自社における女性管理職が5年前と比較するとどのように変わったかを見ると、「増加した」と回答した企業は21.2%、変わらないとする企業が69.8%と7割近くに達し、伸びは鈍化傾向です。 (*2)
また、女性登用についての調査では、自社において女性登用を進めている企業は42.6%となり、前年の50.0%から7.4ポイント減少し、女性登用を進めていない企業は41.0%で、前年の34.0%より7ポイント増加しています。 (*2)
日本国内の女性の雇用者数は増加傾向にありますが、このうち過半数超がパートやアルバイトといった非正規社員となっています。 欧米諸国と比べても、日本の女性の短時間労働者の割合は38.3%で、オランダ(58.0%)、ドイツ(36.5%)、イギリス(36.4%)などと並んで高く、女性を「主戦力」として活用している企業はまだまだ少ないのが現状です。 (*1)
そのような中「女性活用」において、何をどうすればよいか?どんな効果が期待できるのか?模索している企業も多いと推察されます。
女性活躍推進の具体策
現在の女性登用状況を踏まえ、どのような視点を持って女性の活躍推進を進めていくべきか。クレイア・コンサルティングでは女性活躍推進について以下の3点が重要と考えています。
1. 公平な目を持つ(ジェンダー問題)
女性の登用が難しい理由の一つとして、ジェンダー(性差)の存在があります。いわゆる男性らしさ、女性らしさのことであり、その違いに起因して、男性は指示命令を行い部下を統率するマネジメントが向いている一方、女性は協調性が高く、支援型の業務に適している、といったような議論がなされることがあります。
確かに脳科学的な見地からも、男性と女性には明確な差異があるという指摘はありますが、昨今のLGBT(セクシャル・マイノリティ)の存在など、社会的・文化的な側面において、性差を殊更に強調すること自体が差別的に捉えられてしまう傾向にあります。さらに、このような捉え方は女性活躍に向けた思考を矮小化することに繋がります。
意識調査の中で、有職女性(594名)に、管理職の打診があったらどうするかを質問したところ 「受けてみたい」と回答した女性は2割未満に留まり、その理由として「責任が重くなるから」「ストレスが増えそうだから」という内容が上げられました。 (*3)
この調査結果について、これを性差に起因するものとして捉えてしまうと、そこから対策を立案する上で、この性差をどう解消するかという方向にしか議論が発展せず、結果として思考が停止してしまいます。
このような結果になった背景にどのような構造的メカニズムが発生しているのか、根底から考えていく必要があるのです。
一方で、女性から見た女性登用の取り組みが進まない理由に、働く女性の3 人に2 人が「女性が社会で働くには不利な点が多いと思う」と感じていることが明らかになっています。 (*3)
経営陣や管理職が、無意識下で抱いている意識を取り去り、ジェンダーに関する正しい認識を周知徹底し、性差による差別の無い環境を提供することが第一歩となります。
2. 不満を解消する(ワーク・ライフバランス)
女性が不利だと感じている最大の要素は「家事・育児・介護の負担」であり、約44.2%が、「仕事と家庭の両立が難しい」と感じており、ワーク・ライフバランスが管理職への意向を阻害する要因になっていることが明らかとなっています。 (*3)
しかし近年、育児休業制度の規定がある事業所の割合は、事業所規模5人以上では 79.1%と、前回調査(2017年度75.0%)より 4.1 ポイント上昇しており、育児のための所定労働時間の短縮措置等の制度がある企業の割合も 72.1%と前回調査(2018年度69.0%)に比べ 3.1ポイント上昇しています。 (*4)
ワーク・ライフバランスの促進や長時間残業の抑制といった女性の就業継続支援につながる取り組みを行う企業は確実に増加しており、それらの施策が女性社員の管理職への意向を高めることにある程度寄与していることは確かな事実です。
しかし、これらはあくまで現在の不満を解消し、働きやすい環境を整備するための施策であり、これだけでは女性社員を動機づけ、管理職への意向を高めることは難しいと言えます。これらの負担を軽減することは重要ですが、女性社員にさらに高い意欲を持ってもらうためには、より重層的な対策を打つ必要があります。
3. 動機付ける(女性活躍推進の鍵)
女性の登用を進めていく上で最も重要なのは、女性にとっての働きにくさを作り出している要因を解消することと同時に、女性の仕事に対するやる気やチャレンジ意欲を高めることです。
ハーズバーグという学者が提唱した「衛生要因と動機づけ要因」の理論をご存知の方も多いでしょう。ワーク・ライフバランスなどの働く環境における不備をできるだけ失くし、不満を解消していく方策は、衛生要因を満たす施策と言えますが、女性社員が前向きになって働くような動機づけがなされるわけではありません。女性社員の心に火を灯し、前向きな意欲を高めていくためには更に「動機づけ要因」を満たす必要があるのです。
クレイア・コンサルティングが2014年に大企業のビジネスパーソン1,600人に対して実施した調査では、管理職を目指そうと考えている女性社員は「責任ある仕事を引き受ける意欲」と「創造的な仕事に取り組みたいという意欲」をもっていることが判明しました。
また、仕事を通じて組織への貢献を実感し、今の仕事に前向きでやりがいを感じている女性社員ほど、管理職になって活躍したいという意欲を高く持っていることが明らかとなりました。このような意欲を高めていくためには、個人に高い裁量を与え、難しい課題へのチャレンジを推奨するようなマネジメントを行っていく必要があります。また、上司が部下を信頼しながらキャリア形成を支援していくマネジメントも必要となります。
このように、女性社員の不満を解消するだけでなく、女性社員のやる気を高め、大きく動機づけるような人事・組織マネジメントを行うことが、女性活躍推進に向けた条件となるのです。そして、この施策は女性だけでなく、男性にも効果が高いことが明らかになっています。
挑戦する環境を与え、正当に評価・処遇を行い、社員の可能性を広げていく人事・組織マネジメントの一層の充実こそが鍵となります。
参考
- 独立行政法人労働政策研究・研修機構『データブック国際比較2019』
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2019/documents/Databook2019.pdf - 帝国データバンク『女性登用に対する企業の意識調査2020年』
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p200803.html - ソニー生命『女性の活躍に関する意識調査2020』
https://www.sonylife.co.jp/company/news/2020/nr_201027.html - 厚生労働省『令和2年度雇用均等基本調査』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r02.html
調査レポート
<ビジネスパーソン1,600名を対象とした意識調査>
大企業で「管理職になりたい」女性社員、18%にとどまる
管理職志向を高めるには、「環境」だけでなく「充実した仕事」の提供が不可欠
女性活躍に関する弊社の事例
- 航空会社の主客室乗務員(チーフパーサー)の機内マネジメント力向上に向けたコンサルティング
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