経営人材の育成が必要とされる背景
2015年に「コーポレートガバナンス・コード(CGコード)」が策定され、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)について、具体的に踏み込んだ指針が掲げられました。(*1)
【原則4-1.取締役会の役割・責務(1)】
出典:株式会社東京証券取引所『コーポレートガバナンス・コード』
補充原則4-1③
取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。
さらに、2021年6月には「CGコード」が改訂され、企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保についても求められるようになりました。(*1)
【原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】
出典:株式会社東京証券取引所『コーポレートガバナンス・コード』
補充原則2-4①
上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。 また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。
このように、企業は将来の後継者育成にこれまで以上に計画的に取り組まなければならない状況に置かれています。
また、ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)の中にも「後継者計画(対象ポジションに対し、どの程度継承候補者が育成されているか示す指標)」が挙げられており、後継者育成の重要性が高まっています。
例えば日立製作所は、経営トップと指名委員会を中心に、変化・変革を牽引する経営リーダーの中長期的な育成(Global Leadership Development Program: GLD)に取り組んでおり、次期・次々期のCEO、事業部門長など経営リーダー候補の育成にあたっては、世界中の日立グループの人材から数百名の候補を選抜し、タフ・アサインメントを取り入れたOJTおよびOff-JTを実施しています。
さらに、若手優秀層を選抜した「Future50」(約140名)、その上に経営リーダー候補のタレントプール「GT+」(約540名)を設け、経営者ポジションを含むアサインメント、社外取締役と直接議論する機会の提供などによる集中的な教育を行っています。(*2)
またファーストリテイリングでは、執行役員の女性管理職比率目標を30%(2023年8月時点で9.6%)、外国人比率目標を40%(同19.2%)とし、グローバルで成長機会を提供―具体的には、①グローバルジョブローテンション、②グローバル社内公募、③日本への育成派遣の拡充―し、人材配置の最適化と組織の多様性を推進しています。(*3)
一方で、労務行政研究所が2022年に実施した「人事労務諸制度実施状況調査」によると、経営幹部候補育成のための選抜型研修を実施している企業は27.1%(1,000人以上の企業では41.4%)であり、多くの企業は将来の後継者育成にこれまで以上に計画的に取り組まなければならない状況にあると考えられます。(*4)
今後求められる経営人材とは
今後求められる経営人材とは、不透明な環境下でも自社の進むべき方向性を自ら定め、組織を力強く牽引しながら事業を創造する「変革リーダー」です。
変革リーダーには、「外部志向性」「ビジョン策定力」「意識統合力」「変革力」「多様性重視」など、安定的な環境で事業を推進するリーダーとは異なるコンピテンシーが求められます。(弊社では、変革リーダーの要件として、15項目から成るコンピテンシーを設定しています。下図参照。)
変革リーダーを育成するカギは、以下の2つがあります。
- ①
①資質を備えたポテンシャル人材の早期選抜
20代、30代の若手社員の中から必要な資質・適性を備えたポテンシャル人材を選出し、入社年次等に関係なく、早期に昇格・昇進させる。 - ②
②戦略的なタフ・アサインメント
敢えて本人の能力よりもストレッチしたポジションや役割を与え、経営者としての疑似経験を早期に積ませる。
これら2つを効果的に行うためには、候補人材一人ひとりのスキルやコンピテンシーの可視化が不可欠です。そのため、最近の経営人材育成における事例では、既存の主力事業(本流)へのアサインではなく、敢えてグループ会社や子会社、海外拠点など傍流を経験させる事例も見られます。
なぜなら、既に形が出来上がってしまった本流ではなく、制約のない状況でゼロから事業を創造させる機会で経験を積ませ、それを自ら乗り越えさせることで経営人材に求められるスキル・コンピテンシー・マインドを強化しようとする背景があると考えます。
なお、これら2つのカギを合わせたものが「ファストトラック」と呼ばれる手法です。人事制度上の「ファストトラック」とは、将来的な幹部候補と目される若手人材を早期に選抜・抜擢し、早くから経験を積ませる特別ルートを設けることを指します。
しかしながら、労務行政研究所が2021年に行った調査によると、2021年時点で「ファストトラック」を導入している企業は、試験的に導入している企業を加えても2割程度と低い水準にとどまっているという結果がでています。(*5)
クレイア・コンサルティングが提案する経営人材育成
1.各企業の事業環境に応じて望ましい人材像を策定
クライアント企業を取り巻く個別の事業環境に応じて、それぞれの企業に求められる経営人材のタイプや要件は異なります。
同一企業でさえ、既存事業を拡大していくフェーズなのか、事業ポートフォリオを抜本的に組み換えるフェーズなのかによって、経営人材に求められる要件は異なります。一方、どのような業種・業態であっても企業が求める普遍的な要件も存在します。
クレイア・コンサルティングでは、企業毎の独自性を尊重しつつ、普遍的なベストプラクティスを有効に取り入れながらクライアント企業にフィットした「あるべき経営人材像」の策定を支援します。
2.将来の経営人材育成は若手・中堅社員の段階から着手する
経営人材の輩出に関しては直ぐに効果が出るような短期的施策は存在しません。そのため、将来の当該人材の育成に向け、中長期施策の一環として取り組むことが必要です。また、その候補群となる若手社員や中堅社員に強化してもらいたいスキルやコンピテンシーを明示し、早期からの育成・開発に取り組む体制を構築しておくことが不可欠です。
具体的には定期的なコンピテンシー診断や昇格判定のためのアセスメント開発、能力開発に向けた育成プログラムの構築、人事評価制度や昇格基準の整備、マネジャー向けの育成スキルの強化などの施策が挙げられます。
つまり、タレントマネジメントシステムなどのITツールを活用しながら、自社の保有人材のスペックを適切に把握した上で中長期的な視点から後継者計画を定めることが必須です。
クレイア・コンサルティングでは、他社での成功事例を踏まえ、経営人材をより効果的に育成するための施策を多面的・複合的に提供し、クライアント企業の中長期の取組みを支援します。
経営人材育成の進め方
ステップ1.求める経営人材像の策定とコンピテンシーの策定
- 自社の経営人材に求める人材像の明確化
- 必須コンピテンシーを抽出する
ステップ2.コンピテンシーおよび人材育成施策の策定と実行
- コンピテンシーの区分・優先順位付け(採用で重視するコンピテンシーと入社後の育成で強化するコンピテンシーの区分)
- コンピテンシー別の育成プログラムの策定
- マネジャー向け育成スキルの強化
- 人事制度の改定・整備
ステップ3.戦略的なタフ・アサインメントを通したコンピテンシーの発揮
- 社内の良質な経験・能力開発機会の抽出と体系化
- アサインメントのモデルケースの策定
- タフ・アサインメント後の内省および振り返りプロセスの構築
ステップ4.定期的な人材アセスメントの実施とモニタリング
- 人材アセスメントの設計
- 人材アセスメントによるデータ取得およびデータ活用
- その他の人材データに関する管理・活用方法
- 選出された人材の定期的なパフォーマンスチェック(人材開発会議による毎年のチェック&レビュー、360度サーベイ、など)
参考
- 株式会社東京証券取引所 『コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~ 』(2021年6月11日)
- 株式会社日立製作所."有価証券報告書2022年度[第154期](2022年4月1日から2023年3月31日まで)".https://www.hitachi.co.jp/IR/library/stock/hit_sr_fy2022_4_ja.pdf,(参照2024-03-29)
- 株式会社ファーストリテイリング."有価証券報告書2023年8月期(2022年9月1日~2023年8月31日)".https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/yuho202308.pdf,(参照2024-3-29)
- 株式会社労務行政."WEB労政時報 2022年7月8日発行 労政時報本誌 4038号014頁 特集1:本誌特別調査 人事労務諸制度の実施状況【前編】 労務行政研究所".https://www.rosei.jp/readers/article/83210,(参照2024-03-29)
- 株式会社労務行政."WEB労政時報 2021年7月23日発行 労政時報本誌 4018号012頁 特集1:本誌特別調査 人事マネジャーに聞く人事労務領域の注目テーマへの対応状況 労務行政研究所".https://www.rosei.jp/readers/article/80486,(参照2024-03-29)