株式取得等により他の企業を買収する際、被買収企業が従来から保有・運用してきた組織・人事オペレーションと、買収企業が従来から保有・運用してきた組織・人事オペレーションをどのように統合させるか?というテーマが、統合後の人事PMIにおいて大きな論点となります。
一般的に、企業統合や企業買収では、被買収企業の組織・人事オペレーションを、買収企業の組織・人事オペレーションに一本化させます。
一方、カーブアウトM&Aによって対象企業における事業の一部を取得する場合、当該事業の従業員向けに適用されてきた組織・人事オペレーション機能を事業とともに取得することはできません。そのため、当該事業に従事する従業員の日常的な組織・人事オペレーションをどうするか?という「スタンドアローン・イシュー」に直面します。
この「スタンドアローン・イシュー」に対しては、買収側の組織・人事オペレーションを被買収側に拡大適用する方法以外に、買収前に当該事業を保有していた企業とTSA(Transition Service Agreement)を締結し、当面の間以前の会社から必要な機能に関して継続支援を受ける、といった選択肢や、社外の専門機関・委託先にアウトソース・外注することで買収後の組織・人事オペレーションの一時的な停滞を回避する、といった選択肢が考えられます。
解決すべき課題
ここで述べる組織・人事オペレーションとは、人材採用機能、人材育成/教育研修機能、給与計算システム、勤怠システム、人事情報システム/タレントマネジメントシステム、福利厚生・退職金制度、社会保険事務など、M&Aの対象企業・事業に従事する従業員に適用されてきた広範な機能を指しています。
これらの機能は、いずれも、M&Aや組織再編後の人材マネジメントを効果的に進める上で不可欠な要素であると言えます。特に、日々の勤怠管理や残業申請等に関するルール・システムは、Day1以降の社員の働き方に直接影響を及ぼす要素であり、社員からも目に見えやすいため、いち早く必要な体制を構築・整備しておくことが不可欠です。
M&A・組織再編に伴う組織・人事オペレーション体制の構築は、「経営統合」の場合と「カーブアウトM&A」の場合で、対応方法が異なります。
「経営統合」の場合
経営統合の場合、新たな組織・人事オペレーションをゼロベースで構築することは稀であり、対象企業がこれまで利用してきた諸機能をそのまま経営統合先・買収先に拡大適用するケースがほとんどです。この場合、以下のポイントを予め検討・確認しておく必要があります。
経営統合における組織・人事オペレーションのチェックポイント
- 一方の会社が利用してきた機能を他方の会社に拡大適用しようとした場合、そのコストはどの程度か?(経営統合の従業員数の拡大に伴い、サービス・システム利用費用がどの程度増えるのか?)
- 一方の会社が利用してきた機能をDay1時点で解約・停止する場合、そのコストはどの程度か?
- 一方の会社が利用してきたサービス・システムを他方の会社に拡大適用する場合、移行までにどの程度の期間を要するか?
- はじめて新しいサービス・システムを利用する側の従業員に対し、いつ、どのような形で事前説明会やユーザートレーニングを実施するか?
- はじめて新しいサービス・システムを利用する側の従業員向けの質問対応やコールセンター機能をどのように確保するか?
- 組織・人事オペレーション体制の一本化に伴い、これまで当該機能の運営やサポートに従事してきた人員に余剰が発生した場合、当該人員をどのように配置転換・異動させるか?
「カーブアウトM&A」の場合
カーブアウトM&Aの場合は、買収側がすでに運用している組織・人事オペレーション機能を(カーブアウト対象となった)被買収対象の従業員に拡大適用することが一般的と言えます。尚、上記で触れた「スタンドアローン・イシュー」を抱えるケースでは、以下のポイントを予め検討・確認しておく必要があります。
カーブアウトM&Aにおける組織・人事オペレーションのチェックポイント
- カーブアウトの対象事業(または対象組織)がこれまで利用してきたサービス・システムを継続利用することは可能か?
- その場合、当該サービス・システム機能を提供する企業(一般的にはカーブアウト実行時の売主企業)とどのような契約を締結しておく必要があるか?
- 仮にこれまでのサービス・システムを継続利用することが困難な場合、どのような代替案が想定されるか?
- 外部のアウトソース先にサービス・システム機能の提供を委託・外注する場合、導入・稼働までにどの程度の期間を要するのか?
- 外部のアウトソース先にサービス・システム機能の提供を委託・外注する場合、その窓口となる自社側の人員・担当者をどのように確保するか?(何名配置するか?)
以上のような視点から事前準備を進め、M&A・組織再編後の組織・人事オペレーションの停滞、それに伴う人事管理・労務管理上の混乱、社員のモチベーションダウンを回避することが求められます。
尚、上記内容は一例であり、他にも買収側の企業グループに組織・人事オペレーションに関する専門機能を担う「シェアードサービスセンター(SSC)」が存在する場合は、当該組織が提供する専門サービスを受けることが可能な場合もあります。
課題解消のアプローチとクレイアの付加価値
組織・人事オペレーション体制の構築にあたり、以下の3つのステップで検討を進めていきます。
ステップ1:M&A・組織再編後の組織・人事オペレーション機能の特定と対応策の想定
HRデューデリジェンスの時点で、経営統合やカーブアウトM&A後に生じる可能性がある“組織・人事オペレーションの諸要素”を抽出し、Day1以降に採りうる選択肢を事前に想定しておきます。
また、このタイミングで将来の株式移転等に伴い、被買収企業が外部の業務委託先と締結している契約内容を(将来的に)見直す必要がないか、Day1以降に契約の終了や更新の必要性がないか、といった点についても予め確認しておく必要があります。
ステップ2:組織・人事オペレーション機能の統合・体制構築
経営統合の場合、対象企業が既に利用している組織・人事オペレーション機能の中で最も効果的・効率的なサービス・システムを選択し、他方の企業に適用します。この場合、新たな組織・人事オペレーション機能をインストールすることになる企業の従業員に対し、十分なユーザートレーニングを行う必要があります。
一方で、統合までのスケジュールの制約等から、サービス・システムの一本化が間に合わない場合も想定されます。その場合、当面の間は両社で使用してきた既存サービス・システムを併用し続けることとなります。
但し、仮にDay1までに労働諸条件だけを統一することとなった場合は、双方の既存のサービス・システムを一部変更・改修する必要があります。更にその後、(労働諸条件以外の人事制度の統一に伴い)追加のシステム改修を行う場合は、明らかに非効率が生じることとなります。
そのため、両社の既存サービス・システムを一時的に併存させる選択肢はできるだけ回避することが望ましく、組織・人事オペレーション機能の統合・体制構築に関する方針やスコープを双方の人事関係者間で予め綿密にすり合わせておくことが不可欠です。
ステップ3:一定期間経過後の組織・人事オペレーション機能のモニタリング
Day1以降、新たに適用した組織・人事オペレーションが確実に定着しているか、非効率や不整合が発生していないか、継続的にモニタリングを行い、必要に応じてサービス・システムの見直しや改定を行います。
特にここ最近、勤怠、労務、人事評価、タレントマネジメント等に関する多様なクラウドサービスが普及しており、様々な選択肢やツールの中から自社にとって最適なサービスを選択することができます。また、M&Aや組織再編の直後に比べ、組織・人事オペレーションに投入する人員や工数が効率化されているかどうかも検証する必要があります。
クレイア・コンサルティングでは、M&A・組織再編時の人事機能の統合プロセスの一環として、上記の組織・人事のオペレーションの統合についても支援を行っております。