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2.目標や責任を明確にするには?

それでは、このような組織を実現するためには、どうしたらよいのでしょうか?

ここからは、やる気を刺激する組織づくりの方法を、先にあげた3つの特徴に沿って考えてみましょう(下図参照)。

フレームワーク_やる気を刺激する組織

まず、「目標や責任を明確にできる組織」についてです。

役割を明確にすることからはじまる

目標と責任は、表裏一体の関係にあります。与えられた役割が目標であり、それを完遂することが責任だからです。

これをバケツと水を例にして確認してみましょう。砂漠の中で、山田さんは「このバケツに水をくんできなさい」と指示されました。このときの山田さんの目標は水源地を探してバケツに水を入れてくることであり、それをやるとげることが彼の負っている責任になります。つまり、両者は表裏一体の関係になっているわけです。

さて、この目標と責任はどこから生じてきているでしょうか。

そうです、「与えられた役割」からです。ということは、目標と責任を明確にしたければ、まず、そのもとである役割を明確にする必要があるということです。いい換えれば、役割を明確に与えれば、自ずと目標や責任が明確になるわけです(下図参照)。

目標・責任の明確化する構造

組織の本質を考える

では、どうやったら役割を明確にすることができるのでしょうか?

その大きなポイントが、組織にあります。というのも、役割を与えるのは、じつは組織だからです。ここからは、役割を生み出すもとである組織について考え、目標や責任を明確にするヒントを探ってみましょう。

まず、基本的ですが、重要な確認をしておきます。

「組織とはなんですか?」と質問されたとき、何人が即答できるでしょうか?

内容は別にしても、間髪入れずに答えられる人は、案外少ないのではないでしょうか。答えられないということは理解が不十分でることの証明ともいえますので、ここで確認をしておきます。

少し難しい表現になりますが、組織とは、「分化された機能の集合体」であり、分業の産物によってできたものです。ここでいう“分業”の基本原則は、「専門化」と「調整」です。つまり、ある一連のまとまった仕事をこれら2つの原則にしたがって分類して、全体としてその仕事が完結するように調整したものが、組織なのです。

《組織とは?》

事例:陶器を製造・販売する組織

自分でつくった陶器を自ら売り歩いて生計を立てている場合は、材料の手配から製造・商品の在庫管理や販売などすべてを一人が担います。この場合は個人事業主となり、組織ではなくなります。ここ尾では、分業は発生していません。

しかし、組織として陶器を大量につくり販売する場合は、資材調達部・製造部・販売部などのように、複雑な一連の業務を種類ごとに分類し、その仕事に専念させます(=専門化)。

この専門化は、一つの業務に特化することにより、生産性や品質を向上させるというメリットをもっています。そして、必要な量がつくられ無駄が生じないように、また適切な期間内に販売されるように資材調達・製造・販売の各業務間の調整が行われます。

この調整により専門化した各機能の調和が図られ、組織全体としてもっとも効率よく陶器が生産され、かつ販売されるようになるのです。

これが組織の特性です。つまり、「組織の生産性の総和」が「個人の生産性の総和」を上回るからこそ、私たちは組織をつくって仕事をするのであり、その本質は分業の概念にもとづいた役割分担体系にあるのです。

組織を正しくつくり、役割を定義する

この役割分担体系こそが、目標と責任の出所です。ですから、組織の使命を達成するために効果的な役割分担体系ができていれば(つまり、組織が正しくつくられていれば)、自ずと目標や責任は明確になります。

では、どうやって正しい組織をつくればよいのでしょうか?

チャンドラーは「組織は戦略にしたがう」といっていますが、これは「戦略に応じて役割分担体系を変えなさい」ということを示した言葉です。

たとえば、商品に競争優位性があり、黙っていても売れた時代には、営業部にマーケティングと販売を兼務させておいても大丈夫でした。しかし、類似商品が出回り、売れる仕掛けづくりに力点を置かねばならなくなった場合、マーケティング部と販売部のように両者を分離し、それぞれを特化させるために、役割分担体系を変更するわけです。

目的を達成させるために、効果的な役割分担を再編成し、組織をつくり直すのです。こうすれば、正しい組織をつくることができます。また、これらの変更が行われたら必ず、新しい役割を定義・明文化しなおさねばなりません。これを怠ると、目標と責任の出所自体が曖昧になり、結果として目標と責任も不明瞭になってしまうからです。

日本の組織事情を考慮する

日本ではこれまで述べてきた機能論的な組織概念がどうしても薄くなっており、これが個人の目標や責任を曖昧にさせてしまう原因の一つになっています。というのも日本では、組織の活用方法が“機能中心”ではなく、“人中心”になっているからです。

組織のメンバーは、「自分が所属した部署の機能に準じた職務」(=役割)を割り当てられますが、この“役割”の割り当てられ方が日本とアメリカでは異なります。

《組織メンバーの役割》

①アメリカ
「職務に人を当てはめる」傾向が強く、自分の役割を機能的に捉えやすい。組織図を見れば、その人の役割がわかるようになっている。

②日本
「人に職務を当てはめる」傾向が強く、実際には組織図で想定される以上(あるいは以下)の役割を担っていることが珍しくない。

たとえば、下図のように、組織という機能論的な役割分担体系を超えて、個人の役割が決まるのが日本の組織の特徴です。

日本ならではの組織事情

実際、多くの日本企業では、毎期の事業計画や課題を担える人材の有無など、その時の状況に応じて、「職務分掌で定義された以上の目標」が割り当てられることが少なくありません。つまり、「組織としての役割分担」と「そこの所属している個人が担う仕事」が一致しないという状況が発生してしまうのです。

役割を目標や責任に落とし込む手間を惜しまない

ただし、この不一致がよいことなのか悪いことなのかは、一概にはいえません。

たとえば、アメリカ型の場合は、個人の目標や責任が組織とダイレクトにつながっておりわかりやすい反面、「所属する組織以外のことは関知しない」というサイロ現象が起こってしまいやすくなります 。

日本型の場合は、必要に応じて組織上の分担を超えて、役割が与えられますから、「状況に応じて目標や責任を与えることができる」メリットがある一方で、個人の目標や責任は毎回柔軟に変化し、「目標や責任がわかりにくくなってしまう」というデメリットが出てきてしまいます。

このように「個人に与えられる役割が状況に応じて変幻自在する」日本の組織では、目標や責任を明確にするための工夫が必要です。それは「目標や責任を明確にする手間を惜しまない」ということです。つまり、そのときの個人の役割にもとづき、面倒くさがらずに「目標と責任を定義する」ことを必ず行うのです。

幸い、多くの企業では、人事制度の一つとして「目標管理」が導入されています。その都度、個人の目標と責任を定義するための道具は、すでに用意されているのですから、これをもっと積極的かつ真剣に活用すればいいのです。

※この内容は2003年に書かれたものです。

分業
仕事をある基準にもとづいて分け、それを受けもつこと。
分業の概念にもとづいた役割分担体系
組織の目的を達成するために必要な機能を役割として分類し、体系化したもの。
チャンドラー
アメリカの経営史学者(1918~)。歴史的観点から企業経営を研究し、組織論に大きな影響を与えた。
マーケティングと販売
マーケティングの定義には諸説あるが、便宜上、本章では、顧客の目線に立って市場を刺激したり創造する活動を「マーケティング」、製品やサービスを顧客に直接提供する活動を「販売」と定義する。
機能論的な組織概念
組織を機能の集合体として捉える考え方や受け止め方。
職務分掌
職務分掌(部や課など組織単位別に担当する業務をまとめたもの)で定められた内容を職位別に分類しまとめたもの。まとめ方は企業によって異なる。
サイロ現象
縦割り意識や行動をさす。牧場にある丸い筒型の飼料貯蔵庫をサイロと呼ぶことにちなむ。

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