米国型職務主義人事制度には、このような日本型人間主義人事制度のデメリットを補うメリットがあります。
米国型職務主義人事制度のメリット(企業側)
- ①業績に応じた人件費の管理が容易
- なぜなら、報酬(人件費)が、業績によって拡大したり縮小したりする職務と直結しているためです。つまり、業績の低迷によって職務の内容が縮小されたり(成果の縮減も含む)、職務そのものがなくなった場合には、その分だけ、直ちに人件費を節約することができるわけです。
- ②社員の貢献度と報酬のバランスを適正に保ちやすい
- なぜなら、処遇の決定基準である職務は、定義したり、報酬の関係を検証したりするのが、比較的客観的にできるからです。
たとえば、お茶汲みやコピー取り担当の事務員は、いくら能力が高くても年収が1000万円になることなどありえません。一方、このような事態が、人間主義人事制度では、十分にありえますし、実際にこのような事態が発生しています。
しかし、米国型職務主義人事制度にもデメリットがあります。もうおわかりでしょうが、そのデメリットは、日本型人間主義人事制度によって解決可能です。
米国型職務主義人事制度のデメリット(企業側)
- ①能力開発に対するインセンティブ性が低い
- 能力開発に対するインセンティブは、全くないわけではありません。しかし、能力と処遇の間に職務という要素が必要とされるため、そのインセンティブの度合いが高いとはいえません。
特に上位の職務(ポスト、ポジション)が埋まっていて、なかなか空きそうにないときなどは、「より難しい上位の職務に就くために、自発的に能力開発をしよう」という意欲は湧かないでしょう。
それどころか、社外に職務(ポスト、ポジション)を求めて就職活動をはじめるかもしれないし、魅力的な職務(ポスト、ポジション)を巡って社員同士で足の引っ張り合いが起きることもあります。 - ②「会社のため」という意識が生まれる余地が少ない
- なぜなら、職務主義人事制度のもとでは、社員は「定義された職務を遂行する(あるいは定義された職務を遂行するために必要な能力をを発揮する)」ために雇用され、報酬を受けているからです。
職務の定義が明確であるがゆえに、定義されていない職務は行おうとしませんし、職務を追加するときには、報酬面でも相応の追加を求められます。そこには「会社のために」といった漠然とした目的意識が入り込む余地などありません。
組織も業績も安定しているときならこれでもよいでしょうが、組織の拡大期や変革期に「社員の対応能力や人的資源の機動性が高い」とは決して言えません。
社員にとってのメリット・デメリット
今度は、社員の視点に立って、メリット・デメリットを整理してみましょう。企業側の視点と同じように、社員にとっても、日本型人間主義人事制度と米国型職務主義人事制度は、一長一短です。
日本型人間主義人事制度のメリットは次の2点です。
日本型人間主義人事制度のメリット(社員側)
- ①自己の能力向上を仕事の目的とできる
- 日本型人間主義人事制度は、「自分の能力向上を仕事の目標とし、自分の能力が向上すると(たとえ短期的に仕事の成果つながらなくても)、処遇が向上する(認められる)」仕組みです。すまり、「社員の個人的な成長欲求を刺激し、満たしてくれる制度である」といえます。
- ②非常に安定的な処遇をもたらしてくれる
- 企業の業績に応じて賞与が多少増減することこそあっても、基本的には能力があれば仕事はなくなりません。能力を高めるためにコツコツと努力していけば、処遇を高めていくことができます。社員は長期安定的な生活プランを描くことができ、生活面での不安を抱かずに、仕事に邁進できます。
- 日本のサラリーマンは“会社人間”と揶揄され、「家庭を顧みない」「仕事とプライベートの区別がない」などと非難されてきました。しかし、この仕事を通して自己実現や自己の能力向上に強い欲求をもっている社員に限っていえば、人間主義人事制度は「仕事や能力開発に集中することができ、中長期的な視点で高いモチベーションをもたらしてくれる」制度であるといえます。
もちろん、このような欲求をもった社員ばかりではないことは当然ですし、また、違う欲求のもとに働く社員の存在を否定するわけではありません。
とはいえ、このような欲求をもった社員が偉業に大きな貢献をもたらしてくれることを考えれば。、企業はそれらの社員にこそ報いることができる人事制度を欲するはずです。
しかし、日本型人間主義人事制度もメリットばかりではありません。社員にとって、次のようなデメリットもあります。
※この内容は2003年に書かれたものです。