首を引っ込める中高年
年齢が40にもなると、よほど専門的な能力がない限り、なかなか再就職はしにくくなります。大小どの企業も、中途採用の上限に35歳という壁を設けようとするからです。
最近は改正雇用対策法により、募集の際の年齢制限を設けてはいけないことになりましたが、企業のニーズがすぐに変化することはありません。35歳の壁を多少伸ばしたとしても、40歳くらいまでが通常の中途採用の上限です。
そうすると40代になれば、いくら会社の仕事がおもしろくなく、給与に不満をもっていても、とにかくいまの会社にしがみつくことに執着します。もし転職できても、現行給与の3割か5割ダウンは覚悟になるからです。
そのような気持ちをもった中高年が、チャレンジングな仕事を行えるわけがありません。少しでも改革的な要素をもつ仕事には、失敗がつきものです。現在の延長線ではなく、新しいことを行おうとすればリスクがついてきます。
しかし万が一失敗をすれば、それを理由にして、リストラの対象に入れられてしまうかもしれません。いまの会社を辞めても、現行の報酬水準を維持できる会社はありません。
この状況を判断すれば、誰でも「挑戦的な仕事をしよう」という気は起きてきません。
こうして、中高年のやる気も失っていきます定年退職まで無事いられるように、目立たず、何もせず、過去の仕事の範囲を超えないように業務を粛々と行うわけです。
なぜ、労働意欲がさがったのか?
若者・中高年とも、“労働意欲”を失っている大きな背景は、この続く不況のせいばかりではありません。それよりも大きな要因は「ルールの不在」です。
過去の人材マネジメントが崩壊せざるをえないことは述べてきましたが、各企業とも新たな人材マネジメントを模索しつつも、いまだ確固たるルールが提示されていません。
「ルールがわからないゲームをする」ことほど、つまらないものはありません。
現在も不透明で、また将来の不確実性も高い状態――これでは、若者たちが会社に入ろうという気は起きないし、企業の中にいる者も働く気が湧いてきません。
こうして、“ワーク・モチベーション”(労働意欲)がどんどん落ちていくのです。
会社をそのような内部状況にしてしまった責任は、経営者たちにあります。経営不振に陥った会社の経営者はよく、「経済環境」や「競争激化」などといった“社外の状況”をその理由にします。つい数年前までは、巨大企業の経営者が「経営者に学ぶべき領域は、経営学分野ではない。経済学である」とうそぶいていました。この発言の意図は、「一流企業の経営者たるもの、会社の中のミクロ的な観点で経営を運営するものではない。世界や日本の経済というマクロ的な視野で、会社の位置づけを語るべきである」ということなのでしょう。
しかし、それらの会社は明らかに“規制産業”でしたし、たぶん日本経済の興隆に乗っていれば繁栄できたのでしょう。そんな会社がいま、規制緩和とともに、大変な状況になっています。
外部環境がどうであれ、それを乗り越える企業内パワーがあれば、会社は発展していくはずです。企業内のパワーの源泉は、「働く人の能力」と「やる気」です。
名門企業にの社員には、能力も知識レベルも高い人がたくさんいます。そのような人がたくさん集まっているにもかかわらず、活力のない会社が多いようです。
それらの会社が活発な採用を行っていた時期は、日本経済の調子もよく、それに合わせて成長しており、また規制産業ゆえの安定感もありました。このような会社をめざす学生たちは、名門大学の秀才たちです。人気が高いので、そのような学生しか採用してもらえなかったわけです。しかしいまとなっては、能力ある社員の“持ち腐れ状態”になっています。
では、それらの会社に欠けているのは、何でしょう?
それは、何とか現状を打開しようとする“ファイト”であり、“パッション”です。その源泉になる意識が「ワーク・モチベーション」なのです。
※この内容は2003年に書かれたものです。