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1章 成果・実力主義は「日本人のやる気」を刺激したか②

クレイア・コンサルティング 2017.6.20

米国型人材マネジメントとは何か?

冒頭から出てきた「米国型人材マネジメント」の定義や詳細な解説は2章で述べますが、ここでは大雑把な特徴だけつかんでおきましょう。

米国型人材マネジメントの特徴

①人材流動が前提
米国の平均在職年数は3.9年(1998年/米国労働省調べ)で、日本の12.2年(2001年/厚生労働省調べ)と比べて人材が流動化しています。このことが、人材マネジメントの前提となっているので、自分が他社に移ったときに人材価値があるかどうか――つまり「エンプロイアビリティがあるかどうか」という関心が強くなります。
このため、個人の専門性を失わせてしまうような、会社都合による職種転換や配置転換はあまりありません。
②職務給が主体
職務給とは、仕事の種類によって報酬額を決める考え方です。経理部長にはそれ相応の職務給がつくし、人事部の係長にはその責任に応じた給与が決められます。決して、年齢や学歴、または在籍年数などで決められるのではありません。このため、長く在籍したからといって給与が上昇するとは限りません。
③成果の反映がダイナミック
管理職層は年俸制のため、今年の成果によって、来年の年俸が決められます。もちろん、年俸ダウンは当たり前に起こります。年功が経験として積み重なり、成果を導き出すことが想定されるのならば、経験による昇給も考えられます。しかし、1年経過したからといって発生する定期昇給のような概念はありません。
④評価制度が綿密
ダイナミックな給与変化が起こるのであれば、それを説明できるだけの理由が必要です。評価結果がよいのに給与がダウンすれば
、社員は怒って訴訟を起こします。ですから、会社としては、常に詳細な評価結果をもっていなければなりません。
このため、評価方法が複雑かつ作業量が膨大になります。管理職は評価業務の多さに辟易していますが、部下からの突き上げを考えれば、自分の身を守るために仕方ないと思っています。

なぜ、米国型人材マネジメントがもてはやされたのか?

米国型人材マネジメントがもてはやされた背景には、日本型人材マネジメントの情けない実態があります。“3種の神器”といわれた「年功序列」「終身雇用」(実際は定年制度があるので、終身ではなく長期雇用だが)「企業内組合」――これらすべてが、企業経営にも社員のワーク・モチベーション(労働意欲)にも有効性を失ってしまいました。

毎年、“定期昇格”を行っていれば当然、中高齢者が多い会社の人件費コストはあがります。人件費上昇を止めるためには、定期昇給という考えは捨てざるをえません。

しかし、定期昇給を廃止しても、中高齢社員の給与は高止まりしている状態であり、人件費を大幅に圧縮することはできません。そこで、一人当たりの人件費を削減できなかった企業が、人員のリストラに踏み切ったわけです。

名門巨大企業が続々と早期退職を実施し、ここで戦後続いてきた終身雇用制度の考え方は、とうとう打ち砕かれました。

このような社員に痛みが走る変化を漫然として許してきた労働組合が、社員から見放されるのは当然です。定期昇給といった概念がなくなれば“春闘”そのものが否定されます。とはいえ、労働組合も機能せず、社員の解雇に何ら救いの手を差し伸べられなければ、社員も頼るところがありません……。

日本型人材マネジメントの特徴である「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」の有効性が崩壊したのち、頼りになる考え方が国内では発生しませんでした。

そんな中、バブル崩壊で日本企業の経営者が自信を失っているとき、合言葉のように出てきたのが「グローバル・スタンダード」です。

現在では、米国が押し付けようとしている「アメリカン・スタンダード」であったことにみんなが気づいていますが、1990年代は「グローバル・スタンダードが日本企業を救ってくれる」ような幻想を抱いていた経営者が多かったのです。

日米人事マネジメントの特徴

人材マネジメントの世界でも、この言葉が幅を利かしていて、とくに「ジョブサイズ」という職務給をベースにしたマネジメント方法を採用する大企業が増えました。

この考え方は、大雑把にいえば、「世界中で職務価値が同じなら、給与は一緒」という考え方です。ある仕事の責任や権限の大きさを測定し、それを“職務の大きさ”(ジョブサイズ)と定義しています。当たり前ながら、ジョブサイズには在社年数や年齢・性別などは一切加味されず、「仕事」を人間的要素から切り離し、冷徹に分析して割り出した給与決定方法です。非常に合理的で、私情を差し挟む余地はありません。

※この内容は2003年に書かれたものです。

エンプロイアビリティ
「転職可能性」とでも訳すべきだろうが、どれくらい高い価値で転職できるかを示す言葉。つまり、エンプロイアビリティが高い人は、本人が望む仕事を高い報酬ですぐに見つけることができる。
>定期昇給
日本型の給与表では、入社から年が経てば、自動的に給与があがるように設計されている。多くの会社では、この部分を本人給とか年齢給といっている。これと対をなす「職能給」という給与項目を別に定めている会社も多い。しかし、本来職務遂行能力が上がらないと、職能給は上がらないはずなのに、こちらのほうも年とともに昇給させているのが実態である。
企業内組合
外国では職業別横断的組合や産業別組合が普通であるが、日本の労働組合は一般的に企業内で組織されている。企業内組合では、組合員が昇進して管理職になり、非組合員になるため、労使が協調的になりやすい。
人件費コスト
人件費は個人の人件費単価の集合体であるから、成長期には人件費は上昇しても、若年者を多く採用していたので、一人当たり人件費は低かった。しかし経済成長が止まり、単価の低い労働者を採用しないのに、中高齢者の給与は年々上がると一人当たりの人件費コストは上がり続ける。
春闘
労働組合が掲げる「春季生活闘争」のこと。毎年3月~5月に労使が賃金課題を中心に交渉を行う。インフレ対策であった「ベースアップ」や、年功序列賃金の象徴である「定期昇給」の交渉は、最近の経済状況下では意味をもたなくなってきている。

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