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日本型雇用は崩壊するのか!?限界と行き詰まりの正体を解説

西尾 優宏、 橋本 卓 2022.5.30

ニューノーマルの形成と日本型雇用

会社と従業員の利害を一致させる形で、長期雇用や年功賃金など様々な日本独自の雇用慣行(日本型雇用)が形成されました。

日本型雇用は一時期の競争環境に適合し、日本企業の成長のドライバーとして機能したものの、現在の競争環境において行き詰まりが生じており、新型コロナウィルスによるパンデミックをきっかけとしたニューノーマルの形成にともない、その状況は加速しています。

そこで本稿では、日本型雇用とはなんだったのか、自社に適合した人事制度の見直しを行うためのポイントは何かを解説します。

本稿では、日本型雇用システムの考え方と具体的な制度・仕組みとの関係や、競争環境が変化したことによってどのような限界に直面しているのか、そして現在生じている変化の方向性を整理していきます。

日本型雇用とは

日本型雇用とは、労使の利害の一致、すなわち会社は従業員に「配転権(職務・職場・勤務地を命じる権利)の広範な行使」と「会社主導のキャリア開発」を求め、従業員は会社に「雇用保障」と「安定した賃金」を求める、「社会契約」的関係性が日本の労働社会の中で成立したことを背景に成立した様々な雇用システムです。

日本型雇用システム

このような会社と従業員の関係は、具体的な職務を限定しない雇用契約と、「会社のメンバー」としての地位(メンバーシップ)の維持を最優先とする考え方に本質があるとし、職務を基準に雇用関係が成立する欧米の雇用関係(「ジョブ型」)と対比して「メンバーシップ型」と整理する考え方がされます。(*1)

日本独特の雇用慣行は、メンバーシップ型の基本原理をベースとして発展してきました。

組織都合での異動配置

ある人が担当する職務が消滅した場合、会社はメンバーシップの維持のため、別の職務や勤務地へ異動させることで解雇を回避することが求められます。一方、平時であっても会社は組織都合での異動配置を広く行うことが認められます。

年功型賃金

職務に基づき賃金が決まる考え方の場合、職務の異動による熟練度の低下や、職務自体の賃金の高低が生じることになり、従業員は会社主導の異動配置による賃金の高低に反発してしまいます。

そのため、「職務」と賃金を切り離した「人」基準の処遇決定が採用されました。賃金を決定する指標としては、「職務遂行能力」を反映して差がつく仕組みなどが開発されていますが、全体として勤続年数・年齢と共に賃金が上昇し続ける年功型の賃金カーブを形成する傾向にあります。

新卒一括採用・同質的な昇進(順送り人事)・同質的な育成(長期内部育成)

新卒採用される社員の大部分が幹部候補として採用され、順送り人事により、15年程度をかけた「遅い昇進」により徐々に選抜されます。その間、会社主導の部門異動とOJTにより様々な職務の経験を積み、その企業の様々な業務や組織に精通した人材を育て上げます。

年功型の賃金と生え抜き優先の順送り人事は、企業の教育投資が回収されるまで社員の流出を抑制する効果を発揮し、外部労働市場よりも社内労働市場を主軸とした人材調達が発達することになりました。

多くの日本企業はこの「メンバーシップ型」の雇用慣行を背景とした組織能力を成長のドライバーとしてきました。

日本型雇用の限界

前述のように、日本型雇用では各要素が互いに補完する形で最適化・発展してきました。過去の経緯により制度や仕組みが縛られる現象は「経路依存性」と呼ばれ、現在の環境に適合していない場合でも、そのシステムから抜け出すことが困難です。

バブル経済崩壊後の長引く不況の中で、日本型雇用の限界論が幾度も主張されてきており、現在もその状況に大きな変化はないと考えます。現在日本型雇用が直面している限界について、以下の3つの観点で解説を行います。

  • 内部人材育成の限界

  • 年功型賃金の限界

  • 配転権行使の限界

①内部人材育成の限界

日本型雇用システムにおける人材育成の特徴は、自社の幅広い業務に適応した同質性の高い人材が育つことにあります。こうした人材から構成される組織は、安定的な競争環境、すなわち競争優位を確立する要因が明確であり、成熟した市場で固定的な競合プレーヤーと競争する環境下で有利となり、かつての日本企業の躍進に繋がりました。

しかし、不連続で変化が激しいビジネス環境下では、これまでの企業の強みが成り立たず、従って、長期間かけて会社独自の同質的な人材育成に対する優位性が低下しています。

さらに、技術革新や昨今のニューノーマルにより求められるスキルの変化や今あるスキルの陳腐化が加速する環境では、ホワイトカラーを中心に、多様な業務へ適合した人材よりも、特定の専門性に特化した人材へ、優位性がシフトしつつあると考えます。

また、DX(デジタルトランスフォーメーション)や、社内に知見の少ない分野への事業転換など、そもそもOJTなどの社内リソースのみの人材育成は困難であると言えます。

②年功型賃金の限界

年齢や勤続年数と共に賃金が上昇し続ける年功型の報酬システムは、人事に関する会社の裁量を強化した一方で、事業の成長と乖離して賃金のみが上昇し続ける構造的なリスクがあります(*2)

年功制下における報酬/貢献度カーブ
出典:(*2)今野 浩一郎著『正社員消滅時代の人事改革』(2012年)を参考に当社作成

一般的な年功賃金モデルでは、若年層から中堅層の賃金を抑えることにより、生涯を通した賃金と貢献度の収支のバランスを取る構造になります。

多くの企業では日本経済全体の成長を背景に、若年層を積極的に採用し続け、社内の人員構成バランスを保つことで、顕在化を回避してきたリスクが、無視できなくなっています。

また、「①内部人材育成の限界」で示した通り、長期的な人材育成の強みが有効でない競争環境に変わりつつある中で、貢献度が伸び続けることを前提とした年功型賃金モデルの合理性にも疑問が生じています。

企業で実施されるリストラや早期退職のターゲットとして、経験・スキルの浅い若年層よりも中高年層がターゲットとなる傾向も、年功型賃金の限界が示唆していると考えます。

③配転権行使の限界

前述の「安定した賃金」と共に「長期的雇用」についても、信頼性が低下したことから、会社へ依存したキャリア形成に疑問を持ち、自律的なキャリア形成、すなわち自身が従事する職務や専門性を主体的に決定することを希望する働き手が増加する傾向にあります。

また、共働き世帯の増加や、ニューノーマルの形成によって加速した働き手のライフスタイルや考え方の変化によって、会社都合の転勤を受け入れない(総合職で採用しても「転勤できない」こと申告をする、発令しようとすると離職する)という例が増えており、異動によるローテーションが実質的に機能しなくなっている企業も増えています。

日本型雇用はどのように変化していくのか

ここまでは、日本型の雇用システムとその限界について、概略的な解説を行いました。続いては、今日本型雇用に起こりつつある変化の方向性について解説をしていきます。

1.採用

コロナ禍の以前から、企業の採用計画に占めるキャリア採用の割合は増加傾向にあります。特にITなどの分野で高い専門性持つ人材は争奪戦となっており、この流れは今後も継続すると見られています。

新卒採用が縮小する傾向は、現在のところ生じていません。ただし、専門性が求められる業界を中心に、ジョブ型の採用方針へ転換する企業も生じています(*3)

ジョブ型採用実施企業の割合
出典:(*3)リクルートワークス研究所「第 38 回ワークス大卒求人倍率調査(2022 年卒)」(2021年4月27日)

2.キャリア形成

企業が求める能力の変化としては、これまで重視してきた「経験を基に着実に仕事を行う能力」や「チームの一員として自らの役割を果たす能力」の重要度が下がり、「特定の分野における専門的・技術的な能力」や「柔軟な発想で新しい考えを生み出す能力」が今後より一層重視される能力になりつつあるでしょう。(*4)

これまで重視してきた能力と人生100年時代に求められる能力
出典:(*4)独立行政法人 労働政策研究・研修機構 「調査シリーズNo.206人生100年時代のキャリア形成と雇用管理の課題に関する調査」を参考に当社作成

異動や能力開発の主体に関しては、大企業、中小企業ともに会社主導のキャリア形成、横並びの育成を指向する傾向にあります(*4)

一方で、一部の大企業を中心に会社側、従業員側双方から、自律的なキャリア形成を求める動きがあり、今後広がっていくと考えます。

採用・配置・昇進管理に関する企業の考え方
出典:(*4)独立行政法人 労働政策研究・研修機構 「調査シリーズNo.206人生100年時代のキャリア形成と雇用管理の課題に関する調査」を参考に当社作成

3.転勤

育児・介護の事情や共働き社員の増加で実質的に転勤させられない総合職(無限定社員)が増加していること、転勤していない総合職社員と地域限定社員や転勤を繰り返す総合職社員の間の不公平感が高まっていることにより、「同意を前提とした転勤発令」や「転勤実態を反映した公正な賃金設計」へと変化する企業が増えています。

4.報酬システム

前述の「①内部人材育成の限界」および「②年功型賃金の限界」に伴い、横並びの賃金体系から、年齢・勤続年数にかかわらずその時々の貢献価値に報いる「現在価値重視」へ移行する動きが加速していくと考えます。

このような雇用慣行の変化を実行した企業は、競争環境への適合および優秀な人材の獲得にあたって有利になっていくでしょう。

ただし、雇用システム全体には経路依存性があり、一部のみに着目して最適化を図ろうとしても、別の問題が生じた結果、もとの仕組に戻ってしまう、あるいは制度改定自体が実施できない、ということが起こります。

次回は、日本型雇用の行き詰まりに対するソリューションのひとつとして近年注目される「ジョブ型」人事制度を題材として、日本型雇用システムの経路依存性を打破し自社に適合した人事制度を構築するための検討ポイントを解説します。

AUTHOR
西尾 優宏
西尾 優宏 (にしお まさひろ)

クレイア・コンサルティング株式会社 シニアコンサルタント
東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻修了

新卒でクレイア・コンサルティングに参画。
主に人事制度構築、導入支援、退職手当制度改定、管理職アセスメント、同一労働同一賃金を踏まえた労務リスク分析、シニア人材マネジメント等に携わる。

AUTHOR
橋本 卓
橋本 卓 (はしもと たかし)

クレイア・コンサルティング株式会社 執行役員 マネージングディレクター
上智大学法学部卒業

国内シンクタンクにおいて官公庁や公的機関を中心としたコンサルティングに従事後現職。
グループ再編や組織改革の一環としての人事制度構築、組織課題や従業員満足度調査の設計・実施、マネジメントトレーニング/評価者トレーニングの設計・実施、参加型ワークショップを通じた意識改革プロジェクトの設計やファシリテーション等の分野で実績を持つ。

参考

  1. 濱口桂一郎. 新しい労働社会 - 雇用システムの 再構築へ. 岩波新書, 2009.
  2. 今野浩一郎. 正社員消滅時代の人事改革─制約社員を戦力化する仕組みづくり. 日本経済新聞出版社, 2012.
  3. 株式会社リクルート リクルートワークス研究所. 「第38回ワークス大卒求人倍率調査(2022 年卒)」. https://www.works-i.com/research/works-report/item/210427_kyujin.pdf , (参照 2022-5-18).
  4. 独立行政法人労働政策研究・研修機構. 調査シリーズNo.206人生100年時代のキャリア形成と雇用管理の課題に関する調査. (参照 2022-5-18).

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