管理職の「権限」と「責任」のアンバランスの背景には何があるのか。管理職の「権限」が狭まった背景の1つに組織内の「内部統制の強化」が挙げられる。
社内の不祥事や情報漏洩を防止するため、多くの企業で管理職は部下の情報管理や労務管理に目を行き届かせることが要求される。社内には様々なルールが設けられ、管理職が創意工夫をもって、自らの権限を行使する余地はほとんどない。ルールの順守が優先され、外向きの仕事よりも内向きの仕事が優先される。
例えば、ある企業の営業部門の管理職のもとには、営業本部から毎日、営業実績が送られてくる。実績値が計画値を下回れば、すぐに改善案の提出が求められる。今までなら、直属の上司に口頭で報告しておけばよかった取引先情報やクレーム情報も、いくつもの関連部署へ報告が義務付けられる。
さらに、経理部からは経費関連の確認メールが、人事部からは期末の人事考課の依頼メールが、システム部からは新たな情報管理ツールやセキュリティーに関するメールが次々と送られてくる。朝から晩まで膨大のメールに返信し、いくつもの社内会議に参加を求められる。重要な「長期の戦略立案」や「顧客開拓」は後回しにされる。
一方、管理職の「責任」が増大している背景には2つの原因が挙げられる。1つは1人の管理職がカバーする組織や部下の数が圧倒的に増えたこと。もう1つは管理職が担う業務自体が増えたことだ。
前者は組織のフラット化や管理職ポスト削減により管理職自体の人数が減ってしまったことが、後者は新卒採用の抑制や成果主義人事制度の浸透で管理職自身がプレイヤーとなって担うべき業務が増えたことが影響している。
以前に比べて社員の雇用体系が多様化し、マネジメント業務が高度化していることも背景にある。部下のメンタルヘルス、パワハラ、セクハラには細心の注意が求められる。
「権限が狭まる一方で、責任は増大する」状態に置かれた管理職は、手足を縛られ、縮こまっている。それを見た若手社員も将来ヘの希望を失いかけている。このような負のスパイラルが組織内の閉塞状況をもたらしている。
元の記事は『日経産業新聞 企業力アップ!組織人事マネジメント講座 (全33回連載)』(2014年1月09日~3月27日)に掲載されました。