人事諸制度の統合後は、新しい仕組みを導入・浸透させていく段階へと移る。
一般的に、統合日の数カ月前から全社員向けの説明会や管理職を対象とした制度運用研修が開かれる。また、各社の社員が集まり、新会社の価値観や行動規範を議論しながら職場の一体感を醸成するワークショップが開かれることもある。仕事の進め方や人事諸制度が異なる社員が1つの会社のもとでスムーズに業務をスタートさせるためには、社員同士の相互理解と方針共有が欠かせない。
その際、特に重要となるのが「新会社の新たな企業文化の形成」と「適材適所の人員配置」だ。
新会社の企業文化の形成は一朝一夕には実現できない。元来、企業文化とは各社の歴史的背景や事業構造に根差しており、人事制度等のハード面が統合できたとしても、新たな企業文化の形成には時間がかかる。
一方で能動的に働きかけなければいつまでも新しい企業文化が浸透せず、従来のやり方が温存され、判断が遅れたり、非効率が生じる。早期に統合効果を実現するには、いずれにもよらない新たな企業文化を定め、新会社の経営陣が様々な場面や機会を通じて統一のメッセージを発信し続けるほかない。
導入・浸透段階におけるもう一つのポイントは適材適所の人員配置だ。特に「新会社の重要ポストに誰を配置するか」の意思決定は最重要だ。能力や適性に基づく人材配置が行われなければ統合後も禍根を残す。
一方、統合時点では社員の能力や適性を統一基準で比較できないのも事実だ。社員自身も出身元が異なる仲間と一緒に仕事をするまでお互いの実力差を認識できない。各社の人事考課データだけに頼らず、外部の専門家による人材アセスメント(能力審査)を活用し、統一基準で配置を検討することも選択肢だ。
さらに、統合前の要員計画に基づき、最適な人員配置で新会社を発足しても、統合後の業務量に応じて人員の再配置が必要となることもある。その場合も新ルールに基づき、公正なプロセスを踏むことが欠かせない。
新制度の浸透・導入が人事統合の最重要プロセスといえる。うまく制度を統一しても、運用段階で制度に魂が吹き込まれなければ絵に描いた餅で終わる。
元の記事は『日経産業新聞 企業力アップ!組織人事マネジメント講座 (全33回連載)』(2014年1月09日~3月27日)に掲載されました。