基幹人事制度(等級・評価・報酬) の統合に加え、人事統合の大きなテーマの1つが「退職金・年金制度の統合」だ。
退職金・年金制度は働く人々の将来設計に大きな影響を及ぼす上、様々な法令が存在し、人事統合の中でも難易度が高いテーマの1つだ。また、退職金・年金制度は財務的なインパクトが大きく、制度自体の存続の是非を含め、複数のオプションを比較検討することが必要だ。
実際の制度統合では、まず新会社の退職金・年金制度の位置づけを明確にし、基本方針を定める。仮に、新卒採用をベースとした長期雇用重視から中途採用中心の即戦力重視にかじを切る場合、新たな退職金・年金制度は設けず、給与や賞与で報いる方法もある。
とはいえ、統合前の各社に退職金・年金制度が存在する場合、リテンションの観点から制度を存続する場合が多い。その場合でも統合前の2社の旧制度を併存させることは難しい。そこで新たな制度設計が必要となる。「定年時の支給水準」「支給カーブ」「積み立て方法」の3点が重要となる。
定年時の支給水準は、各社の旧制度の水準や同業種同規模の外部水準と比較し、給与・賞与・福利厚生の水準も含めた全体バランスの中で決定していく。
支給カーブは新会社の事業方針と整合させることが不可欠だ。事業運営上、社員の長期勤続が不可欠な場合、若年層の支給カーブをなだらかにし、一定年齢以降にカーブの傾斜を引き上げ、長期勤続を促す。
積み立て方法は統合前の各社の退職金・年金制度の仕組みをベースに、新会社がリスク(債務)を抱え込まないことが大前提だ。新制度によって旧制度からの移行時に様々な制約が生じる場合もあり、専門家に相談することが望ましい。
退職金・年金制度の統合で、従来の条件が大きく低下する場合は訴訟リスクが生じる。実際に旧会社の積み立て分を維持しつつ、旧会社で将来期待された水準と新会社の水準の差額を、社員の年齢や勤続年数に応じて一部補頒したケースもある。他の労働条件変更と同様、労働組合や従業員への十分な説明が必要だ。
退職金・年金制度の統合は複雑なプロセスを伴う。社員に大きなメッセージを発する制度であり、慎重な対応が求められる。
元の記事は『日経産業新聞 企業力アップ!組織人事マネジメント講座 (全33回連載)』(2014年1月09日~3月27日)に掲載されました。