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M&Aにおける人事管理 7 ~制度統合、合理性・公平性で~

桐ケ谷 優 2016.11.24

労働条件(主に就業規則)の統一後は、基幹人事制度(等級・評価・報酬) の統合に移る。その方法は大別すると3つだ。

1つは両社の現行制度を当面併存し、統合後に緩やかに統合する方法だ。この場合、社員の心理的な抵抗感は少ないが、組織の融合が遅れ、出身会社による格差も残るため、社員が不公平感を抱く可能性がある。

2つ目はどちらか一方の現行制度を採用する方法だ。この場合、統合直後から人事制度をスタートできるが、新会社の方向性と人事制度が合致しない場合、現行制度の課題を引きずったまま制度運用が行われることとなる。

3つ目として新たな制度をゼロベースで構築する方法がある。設計までに一定期間を要する上、統合までに各社人事担当者が議論して設計を進めるため難易度は高いが、「あるべき姿」を最も確実に実現できる方法といえる。

実際の新制度の導入・移行には様々な問題が伴う。統合対象となる各社の等級定義や評価基準は各社各様なことが一般的だ。共通の物差しで比較するのが難しい場合、社員の等級を一度仮設定して統合後の評価で正式な等級を決定したり、統合後一定期間に新たなルールで新等級を決定したりといった工夫が必要だ。

仮に部長や課長などの職位が同じでも報酬水準が異なる場合もある。この場合、報酬水準が高い方に合わせると大幅な人件費アップにつながり、低い方に合わせると給与減額となる社員のモチベーションダウンを招く。最悪の場合は人材流出や不利益変更による訴訟リスクを招く。新会社の報酬水準は今後の組織戦略、各社の現行総額人件費、世間相場等を勘案して決定することが欠かせない。

基幹人事制度を統合する際には報酬水準の統一や各社で異なる諸手当の統廃合に伴い、不利益変更が生じる可能性がある。現行制度に比べて条件が低下する社員が発生する場合は激変緩和措置などの施策を打つ必要がある。新会社の経営陣はその分のコストも見積もる必要がある。

新会社の基幹人事制度は社員のモチベーションや働き方に大きな影響を及ぼす。出身元が異なる様々な社員を共通の方向に動機づけるには人事制度に「合理性」と「公平性」が求められる。

元の記事は『日経産業新聞 企業力アップ!組織人事マネジメント講座 (全33回連載)』(2014年1月09日~3月27日)に掲載されました。

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桐ケ谷 優(きりがや まさる)

クレイア・コンサルティング株式会社 ディレクター
慶応義塾大学 文学部卒業。

大手人材派遣会社および外資系コンピューターメーカーの人事部門にて、人材開発や人事制度設計に携わる。その後、国内系人事コンサルティング会社を経て現職。
主に人事制度改革を中心にコンサルティングを行う。最近では、企業再編に伴う人事制度改革や組織改革に従事。また、制度設計だけでなく、人事制度導入局面でのコンサルティング経験も豊富に持つ。

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