各社の現行人事諸制度の比較・分析が完了した後は、新会社の人事諸制度を設計する段階へと移る。
吸収合併であれば、吸収される企業の社員の労働条件は吸収する企業側の労働条件に合わせるのが最もシンプルだ。しかし、仮に吸収する側の条件が高かった場合、安易な片寄せで多くの社員の条件が一律に引き上がることは、新会社の人件費上昇を招く。
また、吸収合併の場合には、「吸収される側の社員の労働条件は吸収する側の企業に原則承継される」という決まりがある。吸収される企業の社員の労働条件を一方的に変更し、条件を引き下げることは法的リスクがあり、労働組合や社員との十分な協議が必要だ。新会社の競争力や法的リスクを踏まえた設計が不可欠となる。
人事諸制度の設計で最優先に取り組むべきは「労働条件(特に就業規則)」の統一だ。事業所が一緒になる場合、統一の就業規則が必要だ。各社人事担当者による人事委員会を組成し、就業時間、休日・休暇、割増賃金等、日々の就労に影響を及ぼす条件を洗い出し、各社の現行制度も踏まえた上で統合案を策定する。統合案が最近の法改正に則っているか、世間相場から乖離していないか確認することも必要だ。
労働条件統一の際は、新会社の基本方針を定めた上で統合案を作ることが望ましい。各社の利害を調整しながら個々の条件を統一することは膨大な時間を要する。統合案に採択された側と採択されなかった側で感情的なしこりが残ると新会社の一体感醸成も遅れる。
例えば全国に拠点を持つ2社が合併した事例では、統合後も出張や転勤が頻繁にあることが予測されたため、「出張や赴任等に関する条件は各社現行制度のうち高い方を採択、それ以外は世間相場と同水準に見直し、全体のバランスを取る」という方針が採られた。各社の「いいとこ取り」によるコストアップを抑え、新会社の働き方にマッチした統合案が策定された。
どのような労働条件も統合に伴ってそれまでの条件が低下する場合は不利益変更と見なされるリスクがある。そのため、全体としてプラスマイナスのバランスを取ること、統合後も一定期間は移行措置を設けることが不可欠となる。
元の記事は『日経産業新聞 企業力アップ!組織人事マネジメント講座 (全33回連載)』(2014年1月09日~3月27日)に掲載されました。