人事統合に伴うHRデューデリジェンス(以下HRDD)で各社の人事担当者は何をすべきか?
HRDDの目的とは、各社の現行人事諸制度を比較・分析し、統合前後の人事上のリスクをあらかじめ想定しておくことだ。
まず、HRDD実施前に各社で秘密保持契約を締結し、就業規則や人事情報を交換する。受領した情報を分析し、不明点は担当者間で相互ヒアリングを行う
HRDDの対象範囲は統合の背景や統合までの準備期間にもよるが、各社の人員数や人件費等の財務的・定量的な分析に加え、人事諸制度の仕組みや組織風土の違い等、非財務的・定性的な分析も含まれる。
統合前後の人事上のリスクとは人員の余剰、人件費の上昇、制度変更に伴う社員のモチベーションダウン等だ。これらのリスクを最小化するため新制度への移行方法を含めた対応策を検討する。時には統合前に各社で何らかの方策を事前に打っておくことも必要だ。
ある事例では、統合後に両社の管理職をそのまま温存すると新会社の管理職比率が極端に高まり、組織運営に支障をきたすことが明らかとなった。そこで、両社管理職の職務権限や昇進プロセスを分析し、新会社でも同じ「管理職」として処遇すべきか検討が行われた。最終的にこの事例では、統合前に両社の管理職向けに共通の能力検査が実施され、新会社の管理職選定に活用された。
HRDDでは就業時間、休日・休暇、賃金の計算期間等、各社の主要な労働条件を1つ1つ比較し、統合後の影響度を事前に把握することも欠かせない。1つの会社になるためとはいえ、会社が一方的に社員の労働条件を引き下げることは社員から訴訟を受けるリスクを背負うことになる。
例えば、ある統合事例では加入先の健康保険組合の変更に伴い、一方の社員たちの健康保険の保険料が増加することとなった。しかし、新会社の経営陣は、労働条件の変更に伴う法的リスクやモチベーションダウンを回避するため、統合後も一定期間保険料の差額を補てんする措置を講じた。
このようにHRDDを通じて人事統合時のリスクと対応策をあらかじめ想定し、統合前後の混乱を回避しながら、統合効果を高めていくことが必要となる。
元の記事は『日経産業新聞 企業力アップ!組織人事マネジメント講座 (全33回連載)』(2014年1月09日~3月27日)に掲載されました。