今回は「分割」による事業再編時の人事課題を解説する。
事業分割の主な目的は、業種業態に適したマネジメントの追求、成長事業の分離独立、事業売却等である。
事業分割では、一部の社員が別の企業に転籍することになる。通常、転籍には従業員の個別同意が必要となるが、会社分割制度を活用した事業分割の場合は、労働契約承継法(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律) に従って分割前の労働条件を包括的に承継するため、個別同意の手続きをとらずに事業分割を行うことが可能だ。
しかし、労働契約承継法による分割手続きは、事業分割の目的達成の観点からいくつかの課題が残る。
まず、業種業態に適したマネジメントの追求が目的である場合、人事諸制度も業種業態に適した内容にすることが必要だ。
例えば、給与水準を職種別の外部労働市場水準に合わせて中途採用の競争力を高める、評価基準や昇格基準に業種特有の要件を反映する、固定給と変動給の割合を変えて社員のモチベーションを高める、等の工夫である。
また、事業売却を目的とする場合、人事諸制度を変更できないことが売却先との交渉で障害となることもある。
社員の同意を得られるならば、会社分割制度を活用して人事諸制度を変更することは可能だ。ポイントは、分割後の明確な事業ビジョンと社員のコミットメントを強化することだ。
例えば、分割前には実現できなかった抜擢昇格制度の導入、業種業態に適した勤務体系や教育制度の整備、業績連動型の賞与制度の導入など、分割された社員が「移籍してよかった」と実感できる施策が必要だ。
また、事業分割後は企業規模が小さくなるため、キャリアの選択肢を狭めないよう、グループ会社間のローテーションや幹部人材向けの登用制度を整備しておくことも必要となる。
元の記事は『日経産業新聞 企業力アップ!組織人事マネジメント講座 (全33回連載)』(2014年1月09日~3月27日)に掲載されました。