2014年1月31日、エイチ・ツー・オーリテイリングは、株式交換によりイズミヤを完全子会社化し、経営統合すると発表した。このようなM&A(合併・買収)による事業再編は近年、頻繁に報道されている。
背景には1997年の独占禁止法改正による持ち株会社制解禁、2001年の商法改正による会社分割制度と労働契約承継法の導入などにより、経営の効率化や事業の拡大・再構築を目的とした事業再編を行いやすい環境が段階的に整備されてきたことがある。
事業再編が行われると、自分が所属する会社が消滅したり、組織の統治構造、いわゆるガバナンスが大きく変化したりすることになる。新卒で入社して定年退職まで勤め上げることが一般的であった日本の大企業社員にとって、事業再編は「一大事」である。
特に、事業再編によって生じる、等級・評価・報酬・就業規則・福利厚生・教育体系といった人事諸制度の変化は、社員のキャリア計や生活設計、日々の働き方にも大きな変化をもたらすことになる。
事業統合(合併など)を行う場合には、旧企業の人事諸制度を統合していくことが必要になる。ところが、人事諸制度の統合には次の4つのリスクがあり、現実には簡単には進まない。
第1にこれまでの人事諸制度が消滅し、新たな労働条件を押し付けられることによって生じる混乱や被害者意識の可能性《モチベーションリスク》。
次に労働条件が一部でも悪化する(不利益変更)際に社員から訴訟を起こされる可能性《法的リスク》。
さらには労働条件の悪化を避けるために、条件の良い企業に合わせて人事諸制度を統合することによって生じる人件費増大の可能性《人件費リスク》。
最後に旧企業間で評価者の能力や労務管理の慣習などが異なることにより、人事諸制度を統合しても公正に運用されない可能性《運用リスク》。
これらのリスクのうち、モチベーションリスク、法的リスクと人件費リスクはトレードオフの関係にあるため、リスクを完全に排除することは難しい。リスクの発生可能性と、リスクが顕在化した場合の影響度を見極めながら、人事諸制度の統合を慎重に進めていくことが必要となる。
元の記事は『日経産業新聞 企業力アップ!組織人事マネジメント講座 (全33回連載)』(2014年1月09日~3月27日)に掲載されました。