前回は、学校法人における人事評価制度についての課題と対策を述べました。今回は、特に教員に焦点を当てて、課題と対策を考えてみたいと思います。
教員に人事評価制度を導入できない理由として、第5回のコラムでも一部解説したとおり、教員の専門性の高さや成果指標の定義が難しいことが挙げられます。その道のプロを評価できる人材がいないという問題は、民間企業の「専門職(スペシャリスト)人材」を評価することが難しいことに似ています。また、成果指標については、大学教員の主な評価領域である「研究成果」と「教育成果」について、現実的に測定可能な評価指標を具体化しにくいという問題があります。
学校法人へのヒアリングや数々の事例考察から、学校法人では、どちらかというと研究成果よりも教育成果の評価に課題を感じているというのが私たちの実感です。
研究成果の評価については、論文数、書籍の執筆・編集、学会講演数、外部資金の獲得額のように定量的に測定できる指標が見つかりやすく、比較的評価しやすいのではないかと考えられます。どのタイミングで評価すべきかといった課題は残っているものの、「何を」評価するかについては一定の方向性が見えています。大学教員の研究的な仕事に類似している民間企業の研究開発職の評価指標も、研究成果として上記のような指標を採用していることは十分ヒントになり得ます。
一方で、教育成果については方向性が定まっていない印象があります。三菱総合研究所が2008年に行った「教員・研究者の業績に関する評価についてのアンケート」調査でも、「現在の教員評価の課題」として「教育活動の評価手法の確立(64%)」が、「評価導入の目的についての教員の理解(67%)」に次ぐ上位項目として挙げられています。幾つかの大学では、教育成果の「量」の評価として授業数、「質」の評価として学生による授業評価や学生(特にゼミ生)への指導内容を評価しています。授業数は差が見えやすく、一定の納得感を得られそうです。一方で、好き嫌い評価に陥りやすい学生による授業評価は、ときに厳しさも求められる教育現場で適正な評価が行われるかは疑問が残るところです。
民間企業でも似たような問題に遭遇することがあります。「部下からの評価(360度評価とか多面評価と呼ばれる評価)」を上司の人事評価に反映すべきか、という問題です。マネジメントや指導を受ける側が評価を行うのは、一見合理的なことのように思います。しかし、これによって上司は部下の顔色を過度に窺うようになり、厳しい指導を行いにくくなる可能性もあります。やる気や能力の不足が大きい部下を抱えて(くれて)いる上司は、厳しく指導せざるを得ない場面が増えます。指導力のある上司のもとに、このような部下を異動させるケースも少なくありません。しかし、そもそもやる気や能力が不足している部下が、このような上司の指導を「自分のため」と感じて前向きに受け取ってくれる可能性は低いのではないでしょうか。
学生の成長に資するように授業の質を改善していくために、学生からの評価を活用することは有意義なことです。しかし、教員の指導力・教育力の評価を単純に学生に委ねてしまうことには疑問を感じます。
そうすると、誰が教員を評価すべきなのでしょうか。通常であれば、評価を行うのは上司の役割なのですが、特に大学教授には、民間企業で「上司」と呼ぶような存在がいません。強いて言えば学長や学部長が上司に当たるのでしょうが、学長や学部長は教授たちの選挙で選ばれるのが通常です。互選で選ばれた人が評価者となって厳格な評価を行うことは難しいでしょう。ここにも、大学教員ならではの評価の難しさがあります。
ではどうすればよいのか。
ひとつの解決の方向性として、妥当性や納得性の高い評価方法が見つからないならば、できるだけ多様な評価視点と方法を複合的に活用することを考えてみてはどうかと思います。
例えば、学生からの評価も(評価項目や評価項目を十分に吟味・工夫した上で)活用しますが、その他に、職員からの評価(学校全体の教育の質を向上する活動への協力度を評価してもらう等)や、卒業生や卒業生を受け入れている企業や団体からの評価も取り入れるということが考えられます。これら一つひとつの評価には視点の偏りがありますが、それらを組み合わせて総合的に評価することで、より妥当性の高い評価となるでしょう。
指導力や教育力は、単年ごとに大きく変動するものではないと思われますので、単年の評価ではなく、複数年の評価を活用するようにするというのも有効でしょう。
また、第三者を入れた評価委員会を設け、上記の評価データを活用しながら、複数の評価者の合議によって評価を決定するという方法もあります。民間企業では、経営者(役員)の評価を行なう機関として、指名委員会や報酬委員会を設けている例もあります。このようなやり方も、十分にヒントになるのではないかと思います。
次回のコラムでは、学校法人の教職員の人材育成について考えてみたいと思います。