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学校法人の人件費の現状と課題

針生 俊成、金田 宏之 2012.2.1

2月は入学試験の季節ですね。

1月14日と15日には、センター試験が行われました。大学入試センターの発表によると、本年度のセンター試験の志願者数は55万5537人で、前年度から0.6%減少したそうです。センター試験の志願者数は、平成14~15年度には60万人を超えていましたが、平成18年度以降は54~55万人程度で推移しています。

一方で、この間の大学数の推移を調べてみると、平成14年度の686校から、平成23年度には780校へと、なんと94校も増加しています(学校基本調査)。志願者数は減少傾向にあるのに、学校の数は増えているのですね。この結果、平成23年度には実に私立大学の39%が「定員割れ」という状況に陥っているようです(日本私立学校振興・共済事業団調査)。

とはいえ話はそう単純ではなく、学校数が増えているその陰で、一昨年(平成22年)は大学の募集停止が相次いだ年でもありました。過去10年間で募集停止をした大学が2校のみ(合併や統合による募集停止は除く)であったことを考えると、この年だけで5校の大学が募集停止したという事実は、大学の経営環境がいかに厳しい状況にあるかを物語っています。平成23年にも1校が募集停止しています。

ともあれ、受験生の立場からすると、「学校数の増加=選択肢の多様化」であり、喜ばしいことです。しかし、学校法人の立場からすると、学校間の学生獲得競争は年々厳しくなってきており、差別化戦略(特色あるカリキュラムや教育品質の向上など)や低価格戦略(奨学金や給費生の拡充、授業料や受験料の引き下げなど)によって競争に勝ち抜いていかなければなりません。

一方で、日本が今後も国際的競争力を維持していくために、高等教育機関(短大・大学・大学院)が果たすべき役割は極めて重要であり、高等教育機関の健全経営は社会的な課題でもあります。

そこで、今回から数回にわたり、学校法人(特に私立大学法人)に焦点を当てて、人事マネジメントの課題と対策について考えていきたいと思います。第1回目は、学校法人の人件費の現状と課題について考えてみます。

学校法人において人件費の健全性を評価する指標として用いられるのが「人件費比率」と「人件費依存率」です。

人件費比率とは、帰属収入に占める人件費の割合を示すものです。一般企業であれば、売上高人件費比率に相当する指標です。私立大学の人件費比率は、平成17年度から平成21年度まで、ほぼ50%で推移しています(日本私立学校振興・共済事業団調査)。収入の約半分が人件費に費やされている構造ですが、ある民間の大手進学塾の人件費比率が約49%ですから、教育サービス産業としては妥当な人件費比率と考えられます。

人件費依存率とは、帰属収入のうち、学校法人の本業ともいうべき「学生生徒等納付金(授業料、入学金等の収入)」に占める人件費の割合を示すものです(帰属収入には、学生生徒等納付金のほかに、補助金収入、寄付金収入、事業収入、等があります)。私立大学の人件費依存率は、平成17年度の89.9%から平成21年度の93.2%まで、一貫して上昇傾向にあります(日本私立学校振興・共済事業団調査)。つまり、本業の収入のほとんどが教職員の人件費に費やされている状態であり、人件費負担も年々増加傾向にあります(参考までに、前出の民間の大手進学塾の人件費依存率は約74%でした)。

今後、18歳人口は確実に減少していきます。志願者数の減少は受験料収入の減少に直結しますし、学生獲得競争が激化すれば授業料減免等の低価格化による授業料収入の減少も想定されます。つまり、学生生徒等納付金(本業の収入)は減少していく可能性が高いものと思われます。このままでは、私立大学の人件費依存率が100%を超える日は、それほど遠くないでしょう(個別に見れば人件費依存率が100%を超える大学は存在します。また、私立短大の人件費依存率は既にほぼ100%に達しています)。

学校法人は利益団体ではありませんが、このままでは高等教育が構造的な赤字事業となることは避けられません。受益者である学生から納付される授業料等で教職員の人件費すら賄うことができない状態は、決して健全とは言えません。また、教育研究活動への投資を制限せざるを得なくなると、教育研究の質が低下し、大学がその社会的使命を果たすことが難しくなっていくでしょう。

ところで、18歳人口の減少は18年前には予測ができるわけですから、現在の学校法人の経営環境は、既に何年も前から予想されていたことです。大学・短大の淘汰が進むということも、何年も前から実際に叫ばれていました。それでも、私立大学の人件費依存率は一貫して上昇を続けており、人件費負担の上昇に歯止めがかかっている様子は見られません。

それだけ、人件費というのは改革に着手することが難しい問題であるということです。

次回は、学校法人の人件費の構造的課題と、人件費改革に着手することが難しい理由について考えてみたいと思います。

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針生 俊成

ディレクター

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金田 宏之

シニアコンサルタント

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