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【事例8】 経営課題を可視化するエンゲージメントサーベイ支援

SUMMARY
  • 大手製造業A社におけるエンゲージメントサーベイの設問設計と分析、フィードバックまで一貫した支援を実施
  • 設問設計の段階から、全社・各拠点における実態把握と問題発見のためにサーベイ結果をどのように活用するかを想定し、分析の枠組みを設定
  • スコアの経年比較といった基本分析にとどまらず、現場のマネジャーが自部門の現状を把握し、手を打つためのヒントを得られる部門別フィードバックレポートを作成

クライアントプロフィール

業種
製造業
従業員数
約3,000人
期間
要件定義1ヶ月、調査設計1ヶ月、調査準備・実施2ヶ月、調査結果分析1ヶ月、解決策立案・提言1ヶ月、計6ヶ月

プロジェクト開始の背景

想定された課題とは

2023年3月期より人的資本の情報開示が義務化されることを受けて、上場企業であるA社の人事部が、開示分野のひとつである従業員エンゲージメントについてデータを取りそろえるよう経営層から指示を受けたことがきっかけでした。

A社では2023年以前も定期的に従業員満足度調査を実施していましたが、主な目的は労働組合への対応であり、設問項目は福利厚生に対する満足度や労務状況の確認といった「働きやすさ」に関するものが中心でした。

また、年齢区分や所属、職種といった属性ごとにスコアを集計して経年比較を行っていたものの、スコアが大きく変わらない項目がほとんどであり、「どの層にどのような問題があるのか」「問題に対して会社としてどのように手を打つべきか」といった具体的な施策への繋げ方にも課題を感じていたようです。

どのような形でプロジェクトが始まったのか?

クレイアはまず、設問設計の前段階でA社の調査目的の整理を「何を見たいか」「どう使いたいか」の観点から行いました。前回の調査では、出た結果を見てからどう読み取るかを考えていましたが、今回の調査ではあらかじめ調査目的に即して、適切な分析方法を明らかにしておくことで、何を見たくて調査を行うのかという軸をぶらさないような設計にしました。

調査目的の定義にあたり、まずは社内の多種多様な目的を把握するため、経営関係者だけでなく、様々な部署に対しヒアリングを行いました。ヒアリングにはIR・広報、採用、人事部の健康管理部、教育研修、企画、事業部門人事のそれぞれの担当者が参加しました。

ヒアリングの結果、部署ごとに「何を見たいか」「どう使いたいか」の方向性が様々であることがわかったため(以下1~7参照)、各部署の意見を取りまとめてサーベイの目的を明確化しました。

【各部署の意見をもとに整理したサーベイの目的】

  1. 会社が世の中に発信する非財務指標の一つ(エンゲージメント)として使いたい:経営層・IR/広報
  2. 会社理念の理解度・体現度(課題に落とし込めているか)を見たい:経営層・企画・採用
  3. あるべき組織・人材の状態に近づけるためのモニタリング&コントロールの仕組みとして使いたい:経営層・企画
  4. 社員の健康・安全(身体的・心理的)が健全な状態にあることを確認する手段として使いたい:人事部健康管理部
  5. 離職の兆候をつかみ対策を打つためのアラームとして使いたい:企画・事業部人事
  6. 個々の社員のキャリア志向、学習意欲・ニーズを把握し、人事異動やサクセッションプランなどキャリア施策の判断材料(教育施策)として使いたい:教育研修
  7. 現場のマネジャーが現状を把握し、アクションを打つためのヒントになるようなものにしたい(数字の読み方やアクションへのつなげ方のフィードバックが必要):企画・事業部人事

プロジェクトの内容

1.調査要件の定義・分析方法の想定

調査目的を基にクレイアが整理した調査要件は以下の通りです。

括弧内に記載した番号は、上記「各部署の意見をもとに整理したサーベイの目的」と対応しています。

  • ミッションビジョンの浸透度(目的2、3)

  • モチベーションの状態(目的4、5、6)

  • マネジャーのマネジメントタイプ(目的7)

  • 業務効率化の状態(目的4、5、7)

  • 組織活力・カルチャーの状態(目的2、3、7)

クレイアでは分析方法を踏まえた上で設問構造を考え、設計を行います。調査要件を決定した後、要件ごとに適切な集計・分析方法を想定しました。調査目的から適切な分析方法を定め、さらにその分析方法を前提に設問設計を行うことで、目的から設問内容まで筋の通った構成にすることを可能としました。

下図は例として、「モチベーションの状態」という調査要件の分析方法を定めるまでの流れを提示しています。

例をもとに調査要件の分析方法を定めるための流れを説明

2.調査結果の集計・解決策の提示・提言

調査結果は、あらかじめ要件整理の時点で設計していた通り集計・分析を行いました。全体分析、部門別分析をそれぞれ行い、異なる視点での傾向と課題、改善施策を見出しました。

2-1.全体分析

全体分析では、組織全体の傾向の把握、テーマ別の分析を行いました。

組織全体の傾向においては、各設問の全体平均の上下や属性別のスコアの上下を確認し、実施施策の影響度や現状の低スコア要素を把握しました。テーマ別分析においては、調査要件に基づきテーマを設定し分析しました。

例えばモチベーションの状態については、やりがい要因と衛生要因を部署×職制×年代別で集計しました。モチベーションという言葉には様々な要素が内包されており、単純にモチベーションの有無を問う設問を入れるだけでは改善施策への反映ができないと判断し、クレイアはA社にとってのモチベーションとは何か、何を観測したいかという定義について調査要件の整理の段階で話し合いました。そこで軸として定めたのがやりがい要因(働きがい)・衛生要因(働きやすさ)の2つでした。

集計時は、それぞれを掛け合わせABCDの4つに分類しました。これにより、「30代のモチベーションが低い」という情報だけでなく、社員の視点においてモチベーションとはどのような要因が重要視されるのか、その上で30代はどの要因の影響でモチベーションが低いのか、また同じ年代でも所属別では異なる傾向が見られるかといった点も確認できます。

エンゲージメントサーベイ調査結果と全体分析について

上記のように、それぞれの観点について集計結果と関連する設問内容を確認しながら、自社で社員の働きがいを高めるには何が不足しているのか、何を促進すべきかについて分析・提示を行いました。

例えば、過去のモチベーション施策として教育研修の内容充実を掲げていましたが、調査結果をふまえると内容自体に問題があるのではないかと想定できたため、研修実施時間の確保など衛生要因を考慮した対応をとることができました。

2-2.部門別分析

部門別分析を行った結果は部門別フィードバックレポートに記載し配布しました。部門担当者向けに、分析結果から今後経営環境を改善する上でどこをどのように見れば課題観や重要なポイントが確認できるか等スコアの読み取り方について示しています。必要があれば全社の数値と比較し、自部門の特徴を確認してもらえるようにしました。

【部署別フィードバックレポート例】

部署別フィードバックレポート例

その後

現在の状況について

分析結果から、対応すべき課題を明確化できたことにより、経営会議でも解決すべき目標を定めて議論することが習慣化できるようになったと聞いています。また、人的資本経営の実現に向けた自社の向き合い方を外部に伝えやすくなる、社内教育の課題が明確になる等、経営以外の部署の狙いにも答えることができました。

現在はその時々の経営課題に寄り添う目的で、引き続き調査実施のご依頼をいただいている状況です。

プロジェクトの成功要因

一見してスコアは低くなく、経年で大きな変化が認められなくても、従業員エンゲージメントの実態を分析的に把握することで、手を打つべき層や項目に当たりを付けられるようになったことが成功要因として挙げられると思います。

例えば「長期勤続意欲」について、A社では全体のスコアは外部水準と比較して高水準を維持しているものの、属性別にみると20代総合職が低水準にあることを経営層は問題視していました。人事部は、若手総合職を対象としたキャリア研修を充実させるといった施策を講じてきましたが、思ったようにスコアの上昇には繋がっていないのが現状でした。

今回、20代総合職のエンゲージメントの状態を要因分解することによって、「業務が多忙で、研修機会があっても準備や振り返りに充分な時間を割けていない」「専門職志向を持つ若手社員が増加傾向にあり、現在の管理職メインのキャリアモデルがマッチしていない」といった背景が明らかになってきました。

この結果を受け、人事部では中長期的にキャリア展望を高める施策に加えて、業務マネジメント改善に向けた取り組みを開始し、本来業務に専念できる環境づくりや役割分担の見直しについて管理職層へ働きかけを行っていると伺っています。

AUTHOR
橋本 卓
橋本 卓 (はしもと たかし)

クレイア・コンサルティング株式会社 マネージングディレクター
上智大学法学部卒業

国内シンクタンクにおいて官公庁や公的機関を中心としたコンサルティングに従事後現職。
グループ再編や組織改革の一環としての人事制度構築、組織課題や従業員満足度調査の設計・実施、マネジメントトレーニング/評価者トレーニングの設計・実施、参加型ワークショップを通じた意識改革プロジェクトの設計やファシリテーション等の分野で実績を持つ。

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