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3.協力関係をつくるには?

やる気を刺激する組織の特徴の3つ目は「協力関係がある」です。

ここでは、「協力関係を促進する仕組みを組織内に、どうつくるか」と「どのようにして実際に協力関係をつくり出すか」の観点から、その方法を検討していきます。

バーナードの組織論

バーナードは、組織を「ある目的を達成するために集まった人の集合体」と捉えており協力関係を生み出す組織づくりを考えるにあたって、いくつかの示唆を与えてくれています。組織が成立するためには重要なポイントが3つあるというのです。

《組織が成立するための重要ポイント

  • 伝達(コミュニケーション)の仕組みを確保する。
  • 協働意思を確保し促進する。
  • 目的を定式化する。

さらに、バーナードは組織に参画する人の人格を「個人人格」と「組織人格」の2つに分類し、組織内において人は2つの人格を同時にもち合せていると述べています。

《組織人がもつ2つの人格》

①個人人格
その名の通り一個人としての人格であり、組織の掟に反してでも自分の利害を守ろうとする人格のことです。

②組織人格
組織に参画している以上はそれにしたがうという、いわば個人的利害を犠牲にした人格。

人は組織に参画する何らかの意味や意義があるからその組織に参画するわけですが、組織には「組織としての目的やルール」があり、ときにはメンバーの個人的利害と対立する場合があります。

組織内に協力関係を生む3原則

それではバーナードの主張を参考にしながら、「協力関係を生み出す組織づくり」について考えてみましょう。ポイントは3つあります。

《協力関係を生み出すためのポイント》

  • 伝達の仕組みを確保する。

  • 協働意思を確保し、促進する。

  • 目的を定式化する。

では一つずつ解説していきます。

①伝達の仕組みを確保する

コミュニケーションルートを確立し活用しましょう」ということです。協力とは、個人同士の関わり合いから生み出されるものであり、そこには必ず「個人同士の意思疎通」が不可欠になるからです。

ここで注意すべき点は、次のような2種類の「公式・非公式の人間関係図」を念頭に入れて、コミュニケーション体制を作り上げる必要があるということです。

≪組織内の人間関係図≫

(a)公式な人間関係図
「上司―部下」の関係のように、組織のルールにもとづいた人間関係の世界をさします(バーナードが主張している組織人格的な意味合いでの人間関係)。

(b)非公式な人間関係
組織のルールにしばられない個人的な関係にもとづいたコミュニティーのことで、趣味や出身地など、個人的関係にもとづいた人間関係をさします(バーナードが主張している「個人人格的な意味合い」の人間関係)。

組織内で人間関係といえば、通常、(a)の公式世界をさすことが多いのですが、じつは組織内にはもうひとつの人間関係のコミュニティー(=非公式世界)があります。組織内のコミュニケーションをうまく扱うためには、人間関係をこれら2つの側面から捉えねばなりません。

たとえば、「困難な課題を協力し合って克服しなければならない」チームがあったとします。あなたが見ている場ではお互いに協力し合っているのですが、目を離した途端に協力関係が崩れてしまうとしたら、チームリーダーであるあなたは、この非公式世界での人間関係に注意して状況を観察してみるべきです。「Aさんはどうも個人的に好きになれない」や「Bさんとは気が合うから、どうしてもBさんとばかり話してしまう」というようなメンバーがいるかもしれません。

このような場合は、状況が許せば、メンバーを入れ替えるなどして対応し、よりよいコミュニケーションの生み出す工夫が必要です。

②協働意思を確保し促進する

「協力し合う気持ちをもたせ、それを強めていきましょう」ということです。

ここで大切なことは、協力が必要な理由をメンバー全員に理解させることです。われわれは一般的に「納得したことに対しては労を惜しまないが、納得しないことに対しては全力をつくしたがらない」からです。

もしあなたがチームリーダーだったら、すでに学んだ「目標と責任を明確にする」ことと「コミュニケーションルートを確保する」という2つの技をセットで活用して、メンバーの気持ちを高めましょう。

また、リーダーであるあなたがチーム内の課題に対して積極的に関与することも、協力の気持ちを高めるためには有効です。メンバーはリーダーの発言や行動をよく観察しているものです。言葉では協力を呼びかけても、そこに行動がともなわなければ、やる気を高めるどころか低めることになってしまい、逆の結果を生み出します。メンバーへ協力を仰ぐ際は、「リーダーの言動を一致させる」ことがとても重要になりますので、リーダーになった場合は注意しましょう。

③目的を定式化する

「協力し合うことを公式のルールとして周知させましょう」ということです。

2つの人格の話からもわかるように、「組織に参画している以上、その掟にしたがうべきである」という気持ちと、「組織の掟を破ってでも自分の利害を優先させる」気持ちが交錯する心理状況に組織内の人は置かれています。この相反する気持ちを埋まるコントロールするための技が、この「目的を定式化する」ことなのです。

ここで大切なことはルールを「公式のものとする」点にあります。組織人格と個人人格が相反した場合には、本人の中で葛藤が生じるわけですが、「協力し合う」ことが組織内の公式のルールであれば、「組織人格にしたがわせよう」というプレッシャーを本人に感じさせることができるからです。

協力し合うことが公式のルールである以上、それを破る際には組織を出ていくくらいの覚悟が必要になりますが、単なる掛け声であれば個人人格が優先されやすくなり、協力体制を築くことは難しくなります。

少しきつ言い方ですが、組織である以上は「最低限守らねばならないもの」については公式化し、メンバーにそれを周知徹底させるくらいの厳しさが必要です。

協力とリーダーシップの関係

次に「どのようにして、実際に協力関係をつくり出すか」について「リーダーシップ」をキーワードにして、その方法を検討していきます。

通常、協力関係は組織内の誰かが、お互いに協力し合うよう働きかけることによって生み出されます。つまり、協力への働きかけがあってはじめて、協力関係が実現するのです。じつはこの働きかけの行為こそが、リーダーシップ(の一形態)なのです。

リーダーシップとは、「集団が、(集団にとっての)望ましい結果を達成できるように援助する行為」のことをさします。リーダーシップを発揮する機会が多いのは、おもに組織階層で上位にいる人たちですが、組織内で上位のポジションにいるからといってリーダーシップがうまく発揮できるとは限りません。

リーダーシップを効果的に発揮するためには、ポジション以外の秘訣があるのです。

リーダーシップに説得力をもたせる

「効果的なリーダーシップは、リーダーシップの影響を受け入れる側がリーダーシップのを発揮する側の背後に対して、何らかの優勢を認めているときに、成功の確率が高まる」という研究結果があります。この優位性は、「社会的勢力」と呼ばれるもので、フレンチとレーブンによる分類に即して考えると、以下の5つに整理することができます。

《リーダーシップを成功させる社会的勢力》

①報酬勢力
上司は自分の報酬を左右するパワーをもっていると部下に信じさせる。

②強制勢力
上司は自分を処罰するパワーをもっていると部下に信じさせる。

③正当勢力
上司は部下である自分に命令するのが当然であり、自分はそれを受け入れる義務があるという価値観や信念を部下にもたせる。

④準拠勢力
部下が上司に個人的魅力を感じたり、一体感を抱くようにする。

⑤専門勢力
与えられる指示や命令の内容に対して、上司は自分より技術や能力が優れていると部下に確信させる。

さらに、この5つの社会的勢力は「外的なもの」と「内的なもの」に分類することができます。

《社会的勢力の大分類》

(A)外的な勢力(上司が組織から与えられた権力による)……①②

(B)内的勢力(部下自身の内面にも強く依存する)……③④⑤

リーダーシップを効果的に発揮するためには、これらすべての勢力を備えることは好ましいわけですが、より重要視すべきものは「内的勢力」です。これらの内的勢力はそれを受け入れる側の「心理的コミットメント」を高くするからです。

つまり、効果的なリーダーシップを発揮したい(あるいは、発揮する必要がある)場合には、③④⑤を中心とした社会的勢力を率先して身につけることが重要になります。

とくに④と⑤は「リーダーシップを発揮する本人の努力」で高めることができる勢力ですから、仕事上求められる技量や人間性を高めることなどを行うことにより、あなたの説得力は強化されるのです。

「できそうだ」という期待感をメンバーにもたせる

次に効果的なリーダーシップを実際に発揮し、協力関係を促進させる方法を考えてみましょう。

効果的なリーダーシップを発揮するために、役立つ考えの一つに「期待理論」があります。要するに「部下本人に『成功できそうだ』と思わせなさい」ということです。これを心理学的にいえば、「部下に対して成功できそうだと思わせる刺激を与えることにより、成功行動を誘発する」という方法です。

この考え方を応用し、「協力できそう」とメンバーに思わせればよいのです。

あなたがチームリーダーだったら、「みんなが協力してくれているお陰で、順調な滑り出しです。これからもリーダーである自分も積極的にサポートを続けるので、しんどい状況でもみんなで頑張れますよ」とメンバーを鼓舞しましょう。

「自分ひとりでは投げ出してしまうかもしれないけれども、互いにサポートし合うのだから難局も乗り切れる」という気持ちにさせるのです。成功できそうだとメンバーが思えば思うほど、「協力への気持ちも強まり、その結果として協力行動も強化される」という、スパイラルアップの効果が望めるはずです。

※この内容は2003年に書かれたものです。

バーナード
アメリカの経営学者で近代組織論の中心人物の一人(1886-1961)。
コミュニケーションルート
意思疎通を行うための仕組みやインフラのこと。組織内の人間関係や報告・連絡・相談などに関する組織内のルールをさす。
心理的コミットメント
あることに自ら進んでかつ真剣に没入する気持ちや態度のこと。
期待理論
本人が成功できるという思いが強いほど実際に成功する確率が高まるという考え方。

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