米国型人材マネジメントを直輸入した弊害
日本企業が人事に関する方向性を失ったいま、社員たちはどんどんワーク・モチベーション(労働意欲)を失っています。
やる気を失う若者たち
従来の日本型人材マネジメントにしても、「若いときは薄給で激務だが、年齢があがるにつれ、ポジションも給与もあがる。」ことが期待できました。「今は苦労をしても、将来はよくなる」という希望があったわけです。
しかし、その将来モデルがあえなく崩れ去ってしまったのです。
日本の報酬制度は、給与の後払い的性格をもちます。若いうちは安いのですが、時間の経過とともにあがっていき、管理職になればそこそこの給与がもらえます。
しかし現実は、中高年になっても給与は頭打ち、リストラにあうリスクさえあります。そのような状況で若い社員は「将来を期待して、激務に励む」という気にはなれません。
ただでさえ大企業に入社できる可能性が少ないし、たとえ入ったとしても安定感がないのであれば、「大企業をめざそう」という若者は減っていきます。それよりも、気楽にアルバイトをして過ごし、自由になる時間を多く持っていたほうがハッピーです。確かに将来は不安ですが、大企業に入ったとしてもやはり将来は不透明です。
大企業に入社した若者も、「大きな仕事をしたい」「出世したい」というようなファイトを失っています。経済全体が沈滞しているのですから、大企業も方向性を見失ってしまうのは当然です。そこで働く社員の元気がないのはやむをえないことなのでしょう。
しかしそれ以上に、いまの若者に“上昇志向”が薄れてきているのは事実です。彼らが「組織階層の上部を目指す」意欲を失っている主要因として、次の2つが考えられます。
若者が上昇志向を失った主な原因
- ①報酬レベルの頭打ち
- 旧来の年功序列の報酬体系をもっている会社は、「高給与の社員=中高齢者」という図式がなりたってしまっています。人件費削減の効果をあげるためには、この中高齢者の賃金をさげなくてはなりません。
ただし、その中には本当に活躍している管理職もいます。現状では、高報酬が妥当である人たちまで、猶予をカットされてしまっています。これでは「活躍しても報われない」というメッセージを振りまいているようなものです。 - ②過去に比べ増した管理職の責任
- 過去に比べ、管理職(特に上級管理職)になればなるほど大きな責任と、それにともなう仕事に忙殺されるようになっています。上にいけばいくほど、仕事が大変になるのは当たり前と思われがちですが、過去はそうではありませんでした。
以前は環境変化が少なかったため、意思決定の場面も少なく、会社の方針に沿って部下や組織を統合していればよかったのです。そのような状況では、判断力や問題解決力が求められるのではなく、人や組織を柔らかくまとめられる、“温厚さ”や“部下から尊敬を受けるだけの人格”が重要視されました。
とはいえ一般的に見て、そのような能力は年齢と経験を積めば、若年者よりも高まるのは当然で、とくに経営幹部としての能力を磨く必要はありませんでした。
しかし、いまは違います。ビジネスに不確実性が増し、管理職の判断がそのチームの命運を左右します。間違った判断をすれば、いくら一生懸命した仕事でも、すべて徒労に終わってしまうかもしれないのです。
若者たちは、こうした状況をしっかりと見ており、「仕事の責任が格段に増し、報酬に魅力のない」管理職の立場になりたいとは思わないのです。それならば、出世せずに、責任を負わない立場にいるほうが、メリットがあります。こうして、若年社員たちはどんどん上昇志向を失っていくわけです。
※この内容は2003年に書かれたものです。