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テレワークの浸透で生じた弊害とは

テレワークは、組織と社員の関係性や人事マネジメントの在り方に大きな変化をもたらしました。

出社すれば、「すぐそこに存在し、いつでも直接声を掛けられる」身近な存在だった上司や部下が画面越しの対象物(存在)となり、コミュニケーションの手法も大きく様変わりしました。

それまでのリアルなコミュニケーションを補うべく、最近のオンラインツールには様々な機能が盛り込まれ、「リアルとオンラインでのコミュニケーションにほとんど差はない」といった声も聞かれます。

ここでの「リアル」は対面(従来の人が集まる場面)という意味で使用しています。

しかし、リアルなコミュニケーションが持つ“相手の表情や声のトーンを通じて相手の感情を認識する機能“や”非言語的なメッセージを交換する“機能は、オンラインツールではどうしても再現が難しく、結果的にオンラインでのコミュニケーションは相互に無機質的な印象を与えてしまうことがあります。

顧客、取引先、先輩・同僚・後輩、といった様々な関係者との間で交わされる「情報」、職場環境に直接身を置くことで自らの視界に入ってくる「表情・感情・会話」など、リアルな環境にはオンライン環境では再現できない様々な有機的な情報が飛び交っているのです。

また、リアルな環境では、身近な先輩や仲間がいつでも気軽に相談にのってくれたり、自分に声をかけてくれる場面があります。先輩社員の電話応対の様子から取引先との取引状況を想像したり、社員同士が議論を交わす様子を目にすることで職場の中で起こっている問題を認識することもできます。上司や先輩社員と外出した際は、移動時間中に取引先のことで会話をしたり、昼食をとりながら雑談をする機会にも恵まれるのです。

このように、リアルな環境では、上司が直接指導する以外にも様々な「刺激」が部下に対して及ぼされます。

テレワークが浸透するまでは十分に認識していなかったこれらの有機的な情報や刺激が社員の働く意欲の形成や能力開発においてどれほど重要なインプットになっていたかを私たちは今身を持って感じています。

テレワークで高まるマネジメントの難しさ

コロナ禍でテレワークが浸透し、日常的な接触頻度が低下する中、上司と部下の間の物理的・心理的な距離感が生まれ、企業経営における「マネジメント」の難易度は格段に高まったと言えます。

これまでのリアルな環境でのコミュニケーションが常態であった時でさえ、上司によるマネジメント不足が人事上の課題となっていた企業では、テレワークの浸透により、問題が一層顕在化しています。

リアルな環境であれば、上司のマネジメント不足を、更にその上の上司が補ったり、先輩社員や同僚が上司の代わりに指導役としての機能を果たすことが可能でした。

しかし、オンライン環境では、上司と部下との関係性だけでコミュニケーションを完結させなければならない場面も多く、上司のコミュニケーション力やマネジメント力の不足により部下のモチベーションダウンや能力開発に遅れが生じるリスクが高まっています。

従来のリアルな環境からオンライン環境へと変化する

もし仮に、「オンラインが普及したことで、リアルな環境よりも部下のマネジメントが楽になった」と感じている管理職がいたとしたら、それは大変危険な思い込みです。そのような管理職は、自らが果たすべきマネジメント行動を放棄しているか、上司はやるべきことを示したのだからあとは部下の責任だ、と丸投げしている可能性があります。

オンラインの普及により上司側に求められるマネジメント行動の難易度は明らかに上がっており、まずはその前提を共有することが重要です。

企業や上司がこれまでリアルな環境で行ってきた人事評価や人材育成の機能が、テレワークによって再現しにくくなっていることは事実です。そのため、オンライン朝礼やオンライン飲み会など、様々な代替施策を講じる企業も増えていますが、リアルな環境を補うだけの十分な効果を生み出しているとは言いにくい状況です。

テレワークによって大きく変わる人事評価

コミュニケーションの主体がオンライン環境へと変化したことによって発生した「マネジメント上の変化」の1つが「人事評価」です。

通常、人事評価とは、期初に個人目標を設定し、期末にその達成度やアウトプットの内容を評価する「成果評価」と、期中の仕事ぶりや行動発揮度合を評価する「プロセス評価」の2つで構成されます。

人事評価は企業毎に様々な名称で呼ばれており、「成果評価」は「業績評価」「貢献度評価」といった名称で、「プロセス評価」は「行動評価」「コンピテンシー評価」といった名称で呼ばれることもあります。

人事評価の種類

人事評価の種類

テレワークの浸透により上司と部下が直接対面でやりとりをする機会が減り、「物理的に接触しない」状況が生まれたことで、成果評価もプロセス評価も難しくなったと言われます。上司による部下の行動観察が十分に行えない状況下で、特にプロセス評価の難易度は高まっているでしょう。

結果として、以下のような議論が社内で交わされ、全社の人事制度の見直しに着手する企業も出始めています。(尚、筆者はテレワークの浸透によりプロセス評価が難しくなったことだけを理由に制度全体を見直すべきという議論には注意が必要、との立場です。)

■ テレワークの状況では、部下の仕事ぶりを上司がつぶさに観察することはできない

⇒「部下の仕事ぶりを観察できない以上、精緻な“プロセス評価”は難しくなる」

⇒「そうなれば、今後は“成果評価”を中心とした人事評価に移行せざるを得ない」

⇒「そのためにも、一人ひとりに期待する“成果”をより一層明確に定義する必要がある」

⇒「そのために、部下が担当する職務の成果を明確に定めた“職務定義書”が必要となる」

⇒「当社の人事制度を“職務定義(Job Description)”をベースにしたジョブ型人事制度に見直す必要がある…」

また、テレワークの浸透は、上司と部下の間に「会社と在宅」という“物理的な距離感”だけでなく、「上司(または部下)とのコミュニケーションは必要な時にオンラインで行う」という認識のもとで“心理的な距離感”を生んでいると言えます。

上司側からは、

  • テレワークにより上司が部下の日々の行動を逐一確認することが難しくなった
  • 部下一人ひとりの日々の仕事ぶりを把握することが難しくなった

部下側からは、

  • テレワークによって上司・先輩・同僚に気軽に相談できる環境がなくなり一人で悶々と考え続ける時間が増えた
  • 何とか自分の力で進められるところは進めているが、この方向でよいかどうか常に不安を抱えながら仕事をしなければならなくなった
  • 上司に自分の評価を正当に行ってもらえるのか?

といった声が聞かれます。

ある程度成熟している部下であれば、自分のペースで仕事を進められるテレワークを肯定的に捉えるかもしれませんが、そうではない新入社員や若手社員は、「直ぐに上司に相談できず、本当にこの進め方でよいのだろうか?」「上司や先輩社員と話す機会がなく本当に自分は成長できるのだろうか?」といった不安を抱えているのです。

では、テレワークが広がる中で、これから企業や上司は「人事評価」をどのように進めていけばよいのでしょうか?

目標管理制度による方向づけ(計画とコントロール)

ここで改めて人事評価の機能を整理してみましょう。人事評価には主に3つの機能があると言われます。

  • 組織の計画を実現するためにメンバーの行動を方向づける機能

  • 部下の能力開発を促進する機能

  • 査定を通じて昇給・昇格・賞与などを決定するインセンティブ機能

【人事評価の機能】

人事評価の機能

中でも、組織の計画を実現するために、期初にメンバーの目標やアクションプランを定め、その結果をモニタリングしながら計画の修正や追加のアクションを講じていく、①の「方向づけ」は非常に重要な機能です。

それを実行するために、現在多くの日本企業では「目標管理制度」を導入しています。(最近では、「OKR」を導入する企業も増えてきましたが、筆者は「目標管理制度」も「OKR」も本質的な機能は同じものと認識しています。)

*目標管理制度
期初に目標を設定し、期末にその達成度を判定する。業績管理手法として利用されていた仕組みが人事評価にも使われ、今では「成果評価」を「目標管理制度」で行う企業が多い。「MBO」(=Management By Objectives and self-controlの略)とも呼ばれる。
*OKR
Objectives and Key Resultsの略で、全社・部門の目的(ゴール)とそれを実現するためのKey Results(重要指標)を定め、その遂行状況をモニタリングしながら全社および個人の活動状況をコントロールする。米国の半導体大手インテルが従来の目標管理制度を改良し導入し始めたのがその起源と言われている。

目標管理制度の仕組み

目標管理制度の中で実施される取組みは以下の通りです。

1.目標の設定全社目標、組織目標に基づき、個人が取り組むテーマや目標を設定する。
2.目標の達成状況を計測するための指標の設定目標の達成状況を計測するための指標を検討する。
具体的には、売上・利益といった財務指標や問い合わせ件数・訪問件数などの中間指標が該当する。
3.各指標に関する目標値の設定各指標をどの水準・レベルで実現するか具体的な達成水準・目標水準を設定する。
(「〇〇億円」「〇〇%」といった定量的な目標値を設定する場合もあれば、「新規事業を立ち上げる」「新システムを導入する」など定性的に設定することもある。)
4.目標値と実績値のギャップの把握(モニタリング)期中を通じて目標値と実績値を比較しながら、それらの差異を認識し、必要な対策を講じる。必要に応じて計画・目標を修正したり、目標を追加設定したりすることもある。
5.結果の測定と評価一定期間における実績・結果をもとに当初の計画・目標との差異を確認しながら、個人の貢献度を判断(評価)する。
6.評価結果のフィードバック上司が判断した貢献度を部下に伝達することで相互の認識を共有し、今後の計画やアクションの精度を高めつつ、同時に、被評価者の能力開発を促す。

テレワーク環境下での目標管理制度の運用

上記目標管理制度の仕組みのうち、テレワーク環境下では、特に1~3の目標設定および4のモニタリングにおいて上司には難しい舵取りが求められます。

目標設定

1~3の目標設定は、上司と部下が場所や時間を共有することができず、それぞれが異なる状況下で働くこととなるため、上司は部下に対してより一層明確な計画や目標を伝えることが必要です。

これまでは、部下が目の前で働いている状況を直接目にしながら臨機応変に(言ってみれば場当たり的に)目標やアクションを割り振ることができていましたが、今後はより大きな塊の目標(=ミッションレベルの目標)を与え、部下が自律自走しながら目標やアクションに取り組む状態を作り出さなくてはなりません。

ただでさえコロナ禍になる前から、ビジネスを取り巻く環境はより先行き不透明な状況が続いており、将来を見越した計画・目標を立てることが困難だったものが、更にテレワーク環境となることで部下側が持つ現場情報があがって来にくくなり、計画や目標を事前に精緻に設定することは上司側にとっての負担が大きくなります。

また、目標を実現するために自らアクションを考えて実行しなければならない部下にとっても、上司や同僚との限られたコミュニケーションの中で有効な打開策を見つけ出していかなければならず、一定の能力レベルや成熟度が求められます。

1~3において上司側が取るべき当面の対応

  • 期初の時点では大きな方向性(テーマ)を示し、関係者とゴールイメージを共有すること
  • 半期または四半期ベースで具体的な目標・アクションを部下と共に協議・共有すること (決して部下任せにしない)
  • 目標・アクションの振り返りを最低月1回は行うこと(環境変化が生じた場合は都度実施)
  • 上記対応を部下側の成熟度に応じて個別調整することで上司側の負担も軽減すること

モニタリング

4のモニタリングについても、テレワークによって生じた物理的・心理的な距離が、上司による情報の取得や部下へのサポートを困難にしている面があります。

リアルな環境では「この件はどうなった?」「あの件はどうなっている?」と気軽に確認できていたものが、オンライン環境ではわざわざオンライン会議を招集し、部下からの報告を受ける必要があります。

もちろんチャットなどを通じてタイムリーに状況を確認することもできますが、リアルな環境下で報告を受ける時のように、部下の微妙な懸念や不安を掴み取ることは困難です。部下の表情や口調から、部下が何かに困っていそうだな、とか、何か報告しにくいことがありそうだな、といった気づきを上司側が得られる機会も減っているのではないでしょうか。

テレワーク環境下におけるマネジメント手法の1つとして「上司が部下の情報を自ら積極的に取りに行くことが不可欠」との指摘もあり、筆者もこの意見には賛成です。但し、部下を数多く抱える管理職が部下一人ひとりにそこまでの丁寧なマネジメントを行うことは時間的・物理的に難しい場合もあるでしょう。また、部下にとっては、上司から常に進捗報告を求められることがかえってストレスとなる可能性があることにも注意が必要です。

4において上司側が取るべき当面の対応

  • 部下の状況をモニタリングできるよう部下との情報共有の機会・場を定期的に設けること(隔週1回の1on1)
  • 部下側の状況変化を早期にキャッチできるよう、上司-部下以外にも組織内に関係性を築いておくこと(先輩社員と後輩社員、同僚社員同士、メンター活用など)
  • (上記に加え)ITツール等を活用し部下の心理状況をタイムリーに把握できる仕組みを導入すること(月1回の簡易アンケート調査など)

このように、テレワーク環境下の目標管理制度の運用では、リアルな環境のときに活用できていた「組織内の自然発生的なメカニズム」や「有機的なつながりがもたらす効用」に依存することが難しく、それらの効用に過度な期待ができないことを自覚する必要があります。

企業の経営陣や上司側には、それらの機能を代替するための「仕組みやルール整の備」「能動的・意図的なマネジメント行動の実践」「部下の心理状況に配慮した細やかな施策群の継続実施」が求められるでしょう。

人事評価の進化に向けて

テレワークが広く浸透する前から、リアルな環境でも「人事評価」をうまく実践できている企業と実践できていない企業が存在していました。

以前から人事評価をうまく実践できていた企業では、テレワークの浸透により、これまで運用してきた人事評価の機能を低下させないように、自社の人事評価の仕組みや運用法をチューニング(調整)しながら、機能低下を防ぐための努力を行っています。

一方、以前から人事評価をうまく実践できていなかった企業では、社の「マネジメントの弱さ」や「人事評価の欠点」がより一層顕在化し、テレワーク環境下で部下の担当業務の進捗管理や人事評価のフィードバックが適切に行われず、結果責任だけが丸投げされているケースも散見されます。

テレワークの普及が企業と社員の関係性に影響を与えたことは間違いありません。

しかし、この2年半のコロナ禍における企業の人事マネジメントを目のあたりにする中で、筆者はテレワークが普及している企業でもそうでない企業でも、人事評価を効果的に進めるための本質的な成功要因は大きく異なる訳ではないと考えます。

むしろ、テレワークがもたらした環境変化を契機に、企業は自社の人事評価の仕組みや運用方法を更に進化させていくことが求められていると受け止めるべきでしょう。

人事評価の進化の方向性

今後の人事評価の進化、とりわけ、テレワーク環境下での上司・部下のコミュニケーションのあり方やスタイルの変化を前提とした方向性としては、

  1. (期初)ミッションベースでのゴール設定
  2. (期中)コミュニケーションの頻度・質の向上
  3. (期末)成果やプロセスに基づく精度の高い振り返り

の3点が挙げられると考えます。

今後の人事評価の進化の方向性

1.(期初)ミッションベースでのゴール設定

従来以上に、部下一人ひとりが担当職務を通じて実現すべきことが何であるのかを、上位目標とのつながりの中で提示していく能力が、上司側には求められるでしょう。

具体的には、既存の業務を熟知した上で、詳細なタスクやTo Doリストを分解的に指示する能力ではなく、将来に向けて目指すべき方向性や課題を提示し、「今期は何をすべきなのか?」「なぜそれをやる必要があるのか?」「その結果としてどういう状態を実現したいのか?」を語れる能力が求められると考えます。

そのために、上司側には上位の経営目標を自部門の活動に落とし込む能力が必要となります。また、成熟度の高い部下だけで構成される組織とは限らないため、部下側の成熟度や経験値に応じて、提示するミッションのサイズやレベルを適切に調整できることも必要となるでしょう。

上司だけでなく、部下側にも、上司が示す方針を理解し、自らの担当業務で優先すべきことを決められる理解力・解釈力が求められることになるでしょう。

もちろん、こういった関係性の中で組織の計画を立てコントールしていくには、上司・部下間で会社が目指す方向性や現状の課題認識が一致していることが大前提となります。

2.(期中)コミュニケーションの頻度・質の向上

テレワーク環境下になればなるほど、当然ながら従来以上に上司・部下のコミュニケーションの頻度と質を高め続ける取組みが必要です。

頻度

テレワークによるコミュニケーションは招待メールの送付など事前準備を含め手続きが少々煩雑な上、画面越しの会話はどうしてもフォーマルな会話とならざるを得えず、必要以上のことは話さない(または触れない)という状況に陥りがちです。

コミュニケーションの頻度については、オンラインという環境は、放っておけば相互のコミュニケーションが希薄になるリスクをはらんでいるため、上司側も部下に積極的に働きかける(語りかける)、部下側も意識的に細やかな報告を実践することが重要です。

繰り返しになりますが、「情報共有の機会・場を定期的に設けておくこと」「どのような状況変化が生じた場合に報告を挙げるべきか?というルールを事前に決めておくこと」がポイントとなります。

コミュニケーションの質については、対面であれば伝わっていた微妙なニュアンスや雰囲気がオンラインでのやりとりになると十分に伝わりにくくなることを互いに理解した上で、「伝えるべきことは言語化し、簡潔・明確に伝える」「立場の違いを超え、慮りや気遣いは極力排除し、重要事項はストレートに伝える」ことがより一層求められるでしょう。当然ながら、上司側には部下の報告を受容的に聞こうとする態度が求められることは言うまでもありません。

3.(期末)成果やプロセスに基づく精度の高い振り返り

これまでのリアルな職場環境では、人事評価の時期に上司から正式に評価のフィードバックを受ける場面以外にも、日々の業務遂行を通じて上司から直接指摘や指導を受ける機会がありました。そのため、期末に正式に評価を伝えられなくても、部下にとっては、一連のやり取りを通じて、何となく自分に対する上司の評価を予測することが可能でした。

また、リアルな職場環境では、自分と周囲の仕事ぶりの差を認識できる機会(例えば、大口の受注を獲得した先輩社員が上司から褒められる姿を目の当たりにする、など)もあったため、部下にとって、ある時は優越感に浸ったり、またある時は自分自身の不甲斐なさに口惜しさを感じられる機会が存在したのです。

しかし、今後のオンライン環境下では、「自分がどの程度上司の期待に応えられているのか?」という判断基準は、上司からのフィードバック情報に頼らざるを得なくなり、その分上司のフィードバック情報が部下に与える影響は大きくなると言えます。

期初のタイミングで握ったミッションベースの目標が、期末の段階でどれだけ達成できたのか。達成・未達成の判定だけでなくそこに至る期中のプロセスや行動は適切であったのか。もし期中のプロセスや行動が不十分・不適切だったとすれば、どの場面でどのような判断・行動を取るべきだったのか。こういった精度の高い振り返りが上司・部下間で実施されなければ、オンライン環境下での計画・目標の達成は今後ますます難しくなるでしょう。

上司側には、期末の人事評価の機会を単なる査定の場に終わらせず、期初目標の実現に向けて取られた一連の行動・施策の有効性を振り返る機会とし、翌期以降の計画の妥当性を高めるための教訓・インプットとして活かしていく姿勢が今後より一層求められると考えられます。

最後に

コロナ禍の感染予防策の一環として広く社会に普及したテレワークという仕組みは、コロナ収束後も新たな働き方の選択肢の1つとして多くの企業で導入・定着していくことが予測されます。

働く人々の意識としても、今後は「企業がテレワークの仕組みを備えているか否か?」という視点で、就職先・転職先の選択を行うようになる傾向がますます強まっていくことでしょう。

経緯陣やマネジメントを司る管理職の方々には、テレワークと言う新たな働き方がもたらした組織内の変化や働くヒトたちの心理状態を敏感にキャッチし、自社・自部門にフィットした形で人事評価の仕組みを進化させ、自社が目指す組織や人づくりに取り組んでいただきたいと切に願います。

AUTHOR
桐ヶ谷 優
桐ヶ谷 優 (きりがや まさる)

クレイア・コンサルティング株式会社 執行役員COO マネージングディレクター
慶應義塾大学文学部卒業

大手人材派遣会社および外資系コンピューターメーカーの人事部門にて、人材開発や人事制度設計に携わる。その後、国内系人事コンサルティング会社を経て現職。
主に人事制度改革を中心にコンサルティングを行う。最近では、企業再編に伴う人事制度改革や組織改革に従事。また、制度設計だけでなく、人事制度導入局面でのコンサルティング経験も豊富に持つ。