タレントマネジメントとは、組織目標の実現に直結する高いパフォーマンスを発揮できる才能や能力(タレント)を有する人材群を確保・育成し、適材適所な配置を実現するための人材マネジメント手法です。
具体的には、社内・グループ会社間での適材適所の人事配置を行うための「人材と仕事のマッチングの仕組み」や社外への出向・転籍・転身支援などの手法があります。
タレントマネジメントが注目される背景
かつて、日本の大手企業では、新卒一括採用と総合職採用を組み合わせ、入社後10年程度は評価で大きな差を付けないことで、同時期に入社した社員間の競争心をあおり、長期の勤続意欲とモチベーションを維持させる、といった独自の人材マネジメント手法が主流でした。
この手法がうまく機能していたことにより、企業固有のスキルと共通の価値観を備えた人材の輩出や、新たなイノベーションの源泉の創出が可能となり、これまでの日本の企業に様々なプラスの効果を生じさせてきました。
しかし、近年の市場環境の急速な変化・多様化やグローバル企業との熾烈な競争などにより、環境変化に合わせて度重なる企業再編・リストラが行われ、その結果、前述のような日本型人材マネジメントシステムは現在ほとんどの大手企業で形骸化しています。
現在のような新卒、中途、契約社員、外部委託等様々なプレイヤーが混在する状況下では、新卒社員がマジョリティであり入社年次で人材の特徴を語ることができたかつての時代とは異なり、全員に均質な育成機会を与えて横一線で育成していくような人材マネジメント手法を適用することはもはや困難な状況となっています。
このような従来型の人材マネジメントシステムが機能しない混沌とした状況を打破する人事施策の一つとして注目されているのが、「タレントマネジメント」です。
なお、タレントマネジメントという用語は様々な定義・解釈が存在していますが、ここでは「組織目標の実現に直結する高いパフォーマンスを発揮できる才能や能力(タレント)を有する人材群を確保・育成し、適材適所な配置を実現するための人材マネジメント手法」と定義します。
タレントマネジメントの具体的手法
1.個々のポジションに最適な人材を発掘・配置
ビジネス環境の変化や技術革新などによって、業務に求められる適性や役職者ポストに求められる要件も変化していきます。
組織パフォーマンスの維持・向上のために適材適所を行っていくためには、人材と仕事のマッチングを流動化させていく仕組みが必要です。
その具体的な仕組みを解説します。
①人材のポテンシャルを見極めて発掘する仕組み
人材のポテンシャルを見極める方法として、まずは人事評価があげられます。ただ、人事評価には以下のような難点があります。
- 評価者によるアマカラが発生しやすい
- 現在の担当業務に対する適性の見極めはできても、その他の業務への適性を見極めるのは難しい
- 毎年の昇給や賞与に反映されるため、処遇への配慮から補正・修正が行われて評価結果が実態を反映しなくなる
そこで、人材アセスメントを導入し、「社外の専門家による統一目線での評価」「現在の担当業務に左右されない評価」情報を得ることで、人材のポテンシャルを発見しやすくする、などの工夫を行っていきます。
②人材と仕事の組み合わせを固定化しない仕組み
特に重要な「役職(ポスト)」については、役職定年制や役職任期制・定期ローテーションなどを取り入れて、半ば強制的に役職任用の見直しを行い、ヒトと業務を固定化しないようにします。
③「社内公募制(ジョブポスティング)」
「人材の発掘」と「人材と仕事の組み合わせの流動化」の機能を兼ね備えた仕組みとして、「社内公募制(ジョブポスティング)」があります。
公募対象の業務やポジションについて、求める要件と応募条件を定めて公開し、社内から幅広く候補者を募ります。応募者のモチベーションを引き出すことができ、幅広く人材を発掘できるというメリットがありますが、応募プロセスの情報管理(守秘)や選定から漏れた人材に対するフォローなどの運用面での配慮も必要となります。
上記のような人材と仕事のマッチングを流動化させていく仕組みを導入するにあたって、対象となる仕事や組織階層、および流動化の規模(どの程度の比率の人材を動かしていくべきか)を踏まえて、効果的な組み合わせを検討しなければなりません。
2.組織の枠を超えた全体最適での人材配置
成功している上級管理職は、何らかの形で「一皮むけた経験」、すなわち異質な環境に身を置くことで困難な課題や苦難を乗り越える経験を積んでいることが、様々な研究を通じて明らかになっています。
人材育成の観点では、こうした環境を意図的に与えていくことが重要となるため、社内のポストだけでなく、グループ会社や関係会社への出向・転籍の機会もうまく活用し、ポテンシャルの高い人材に適切なタイミングで学習を促していくことが重要です。
グループ会社への再配置を円滑に行うために、人事制度の構造をグループ会社で共通化する、もしくは、グループ会社への転籍条件を具体化するなどの対応が求められます。
特に転籍に関しては、社員の同意が必須であるため、転籍前後の人事処遇格差への合理的な配慮や、適切なコミュニケーションプラン(キャリアプランを含む)の作成が必要です。
クレイア・コンサルティングが提案するタレントマネジメント
1.様々な手法を戦略的に組み合わせて活用
「最適配置の状態」を実現するために必要かつ効果的な方法には、常にいくつかの選択肢が想定されます。
例えば、人事異動(役職任用)を適正基準で行うための人材アセスメントの導入、社内公募制による発掘・配置、役職任期制による段階的入れ替えなど様々な方法が選択肢として挙げられます。しかし、これらの方法にはどれも、効用(メリット)と副作用(デメリット)があります。
クレイア・コンサルティングでは、事業・組織戦略を実現するために最良の人材最適配置手法の組み合わせを、多角的な観点(効果の大きさ、効果実現のスピード、モチベーションへの影響、業務遂行への影響(混乱)の可能性、法的リスク、等)から検討してご提案します。
また、クレイア・コンサルティングのコンサルタントは、「事業・組織戦略」と「人事」の両方に精通しており、特に人事に関しては、人事制度に限らず人事マネジメント全般の設計と運用の経験・ノウハウを蓄積しています。そのため、効果と実効性(実現可能性)を両立させる手法を、幅広い可能性の中から選択することができます。
2.豊富な実戦経験を活かして人材再配置の副作用を抑制
旧来型の人事マネジメントは、一部の社員を過度に優遇しない代わりに落ちこぼれを出すこともしない、全社員をそれなりのレベルに引き上げることを重視した仕組みでした。
一方でタレントマネジメントは、組織目標の実現に直結する高いパフォーマンスを発揮できる特定の社員にフォーカスした仕組みです。そのため、旧来型の人材マネジメントに慣れ親しんだ人にとっては不安になったり、組織の分断など様々なハレーションが生まれたりする可能性があるため、モチベーションダウンや混乱回避などの副作用を軽減・抑制する工夫が必要です。
しかし、このような副作用は、タレントマネジメントの実現によって得られる効果の大きさや即効性と表裏一体となっています。副作用を回避することばかりを考えていたら、タレントマネジメントの導入は前に進みません。
副作用の軽減・抑制のためには、副作用が発生する可能性の予見とその影響の推定、および具体的な方策(ノウハウ)を立てなければなりません。
クレイア・コンサルティングでは、人事制度の設計だけではなく人事マネジメントの運用全般についての詳細かつ実践的な経験を積んだコンサルタントが在籍しております。実例に基づいた副作用の抑制・軽減の方策(ノウハウ)を蓄積しているため、最適な施策を提案いたします。
3.説得力の高い人材評価(アセスメント)の活用
組織的な効用・効果が最大化するように人材と仕事のマッチングを行うことは、タレントマネジメントの実現の要となります。これを実現するためには、人材のポテンシャルを的確に把握することが極めて重要です。
事業環境や組織構造が大きく変化する局面において、従来の評価基準では、今後の仕事に必要なポテンシャルを十分に見極めることが難しい場合があります。また、仮に適正な評価基準が設定されていたとしても、多数の社員を同一目線で適正に評価するには高度な評価スキルが要求されます。
そこで有効な方策が、「人材アセスメント」の活用です。
クレイア・コンサルティングでは、長年の優秀者分析などの知見とデータを応用して、被評価者の思考・行動特性を短時間(半日~1日)で深く分析することができる人材アセスメントツールを独自開発しており、組織の大規模な再編時など、多くの社員を効率的かつ信頼性高くアセスメントしたい場合に有効です。(詳細はソリューション「意識調査/人材アセスメント」の頁を参照)。
タレントマネジメント導入に向けたアプローチ
1.課題設定・全体計画と個別手法の検討
ここまで見てきたように、人材の発掘や配置にも様々な狙いとそれに応じた手法が存在するため、現在の課題と優先順位を見極めた上で、適切な手法を選択し、包括的な施策として組み上げていく必要があります。
具体的な手法と検討事項の例は以下の通りです。
手法 | 検討事項 |
---|---|
人材アセスメント | ・アセスメントのディメンジョン(能力測定項目と基準)を定義 ・アセスメントのツールを開発、または、適切な市販ツールを選択 ・アセスメント対象者の選定基準を定義 ・アセスメントの実施プロセスを具体化 ・アセスメント結果のフィードバック方法を検討 |
社内公募制 | ・社内公募の対象とすべきポストを選定 ・社内公募対象ポストにおいて人材に求める要件を定義 ・社内公募の告知と応募受付の方法を具体化 ・社内公募の決定と社内調整の方法を具体化 ・社内公募による異動の告知方法、および希望が叶わなかった社員への通知方法の具体化 |
役職定年制・役職任期制 | ・役職定年の年齢、または役職任期の年数を設定 ・ポストオフ後の処遇決定の方法を具体化 |
グループ会社への転籍 | ・転籍後の処遇決定方法の具体化 ・転籍時の処遇格差是正措置等の具体化 ・転籍同意の取得プロセスの具体化 (上記に関する個人別の調整が円滑に進むようなグループ人事制度の検討) |
グループ外への転進支援制度 | ・転進支援制度の対象とすべき社員の選定(公募または会社から特定社員に提示) ・転進支援の内容(割増退職金、再就職支援、特別休暇、有給休暇の取り扱いなど)の具体化 ・転進支援制度の社内告知方法の具体化 ・転進支援制度の対象者への説明方法と同意取得プロセスの具体化 ・転進支援制度対象者の面接を担当する社員の選定とトレーニング方法の具体化 |
2.コミュニケーションプラン設計
タレントマネジメントの推進は事業・組織側のニーズを重視して進められるため、各個人にとっては必ずしも望むような異動・配置とならないケースが発生します。
タレントマネジメントの必要性や考え方には賛成できても、個別具体的な異動・配置のケースには納得できない、という「総論賛成・各論反対」が起きるでしょう。
そこで、多くの社員がタレントマネジメントの意義を前向きに受け止め、個別具体的な異動・配置のケースについても前向きな解釈をするように導いていくコミュニケーションプラン設計が極めて重要です。
例えば、タレントマネジメントの必要性や考え方を、個々の社員に誰がどのように説明すべきか、という検討が必要です。この説明を上司に委ねると、個々の社員に伝わるメッセージは「上司が自身や部下の異動・配置を前向きにとらえているか」に依存することになってしまいます。また、人事異動の発令を辞令のみで行い、しかも異動の直前に発令しているような場合は、個別の異動・配属の意図について前向きに解釈することが難しくなります。
タレントマネジメントの必要性や考え方については経営陣や人事部門が全社向けにメッセージを発信することが必要です。個別の異動・配属のケースについては、異動前後の上司が異動・配属の意図について前向きに解釈して語る(期待を示す)面談を設定し、前向きなメッセージをしっかりと準備して伝えるように促していくことが必要不可欠です。