目標管理制度とは、個人が自ら目標を定めることで自己統制を図りながら、組織の目指す方向性と合致させるマネジメント手法であり、業績管理や人事評価で使用されます。
近年、目標管理制度とよく似た概念として「OKR(Objectives and Key Results)」という手法が注目を集めていますが、目指す姿は本質的には同じであり、2つの手法の特徴を踏まえ、自社に合ったものを選択することが求められます。
また、目標管理制度の導入にあたっては、特に以下の3点が重要となります。
- ①
目標の達成度合いについて、部門・職種間でバラツキが少なくなるような、個々人の役割に見合った目標が設定できること
- ②
営業部門の営業職、開発部門の技術職、間接部門の事務職など、部門・職種別の特性に合致したKPIを設定すること
- ③
当事者が主体的に目標設定できるよう、ツールや上司・組織からの支援体制を確立すること
目標管理制度が活用される背景
目標管理制度は元々ピーター・ドラッカーらの理論から発展したもので、会社全体の目標を一人一人の業務として割り当てる「科学管理法」の考え方と、主体的に目標を設定・管理することで自律的な達成意欲を喚起する「人間関係論」の考え方を統合した手法と捉えることができます。
目標管理制度は1960年台後半から1970年台初頭にかけて、不況時における経営管理の強化を狙いとして導入され、その後の景気回復の中で管理職の能力開発や従業員の動機付けのツールとして使用されるようになりました。また、1990年代以降の成果主義的な人事制度の導入に伴い、個人の成果を測るための評価手法として広く活用されるようになっています。
目標管理制度は「全社目標からブレイクダウンした個人目標」「到達すべき目標や期限が明確」という特長を備えており、正しく運用されれば会社が個人に求める成果の創出を促すことができること、また到達すべき目標が明確になることから、昇給や昇格などの基準として活用しやすいという利点があります。
このような背景から、目標管理制度は個人に求められる成果を評価するためのポピュラーな制度として定着していますが、その一方でうまく運用できていない企業が多いのも実情です。目標管理制度を形骸化させないためには、この制度を通じてどのような人事マネジメントの機能を実現したいか、という考え方を明確に持っておく必要があります。
目標管理制度の機能
1.会社の目指す方向と社員の工夫・努力のベクトルを一致させること
目標管理制度は「会社目標→部門目標→個人目標」という形で、組織の目標を個々人の目標にブレイクダウンすることによって、会社の目指す方向と社員の工夫・努力のベクトルを一致させる(方向付ける)機能があります。組織の目標を達成する上で、一人ひとりが「やるべきこと」に意識と努力を集中させることによって、より効率的に組織としての目標を達成することが期待されます。
ところが、現実の運用の場面では、個人が書いてきた目標を上司がそのまま認めてしまうというケースがよく起こりがちです。上司が、上位目標を達成する観点から部下にどのような目標を担ってもらわなければならないか、という「仮説」を持たずに面談に臨んでしまうケースです。部下としても、「何のためにこの目標に取り組むべきなのか」の認識が曖昧なままスタートしてしまうため、期末の評価段階で上司の認識とズレが生じることがあります。
上司が個々の部下の目標について「仮説」を準備して面談に臨むこと、面談では「何のためにこの目標に取り組むべきなのか」の目的を腹に落とすようなコミュニケーションを行うことが重要になります。
2.「どのレベルまで到達すべきか」を明確化し、達成に向けた工夫・努力を最大限に引き出すこと
目標が明確であればあるほど、その達成に向けて社員の工夫・努力を最大限に引き出すことができます。目標の到達レベルが曖昧だと、達成のためにどのようなアクションに取り組まなければならないかがわからず、期末に達成したかどうかを評価することもできません。評価ができなければ、経験から教訓を引き出すこともできず、社員の行動改善や成長を促すこともできません。
ところが、現実の運用の場面では、到達状態が明確でない目標が設定されているケースが多く見られます。この最たるものは、「●●の効率化」「●●の関係強化」といった成り行き型の目標です。このような曖昧な達成状態の表現のままだと、少しでも改善が見られれば「達成」と捉えられなくはないので、社員の工夫や努力を最大限に引き出すような目標設定であるとは言えません。
期初の段階で、評価の目線(「どういう状態なら達成なのか」「達成できなかったとはどういう状態か」)を、具体的にイメージできるように部下とすり合わせておくことが重要です。
3.目標と現状の「ギャップ」を認識させ、ギャップを埋めるための作戦と計画を考えさせること
目標に到達するために「どのくらいのギャップを埋めなければいけないか」を認識させ、そのギャップを埋めるための作戦と計画を個々人が知恵を絞って考える状態をつくりだすことが、目標管理制度に期待される3つ目の機能です。
目標達成の確度を上げていくためには、個々人が以下のことを考えられるように導くことが必要です。
- 今、どういう状態なのか?
- 過去からどの程度改善したのか?
- 過去からの延長線で考えると、どのくらい目標に届かないと想定されるか?
- ギャップを埋めるために、どんな選択肢があるのか?
- 過去の取り組みでうまくいった要因、うまくいかなかった要因は何か?
- 過去もうまくいかなかったとしたら、他にどんな努力ができただろうか?
- 今期は、どんな取り組みに重点を置くことが最も効果的・効率的か?
ところが、現実の運用の場面では、上記①の現状認識がそもそもできていないケースが多く見られます。例えば、「業務時間を●%削減する」という目標を掲げてはみたものの、そもそも現状どのくらいの時間を要しているのか誰も認識していないケースです。
期初の段階で、「今どういう状態なのか」「目標までどのくらいギャップがあるのか」について具体的にイメージできるように部下とすり合わせておくことが、成功確度の高い作戦・計画を導く上で不可欠です。
目標管理(MBO)とOKRの違い
目標管理とよく似た概念として「OKR(Objectives and Key Results)」という手法が近年注目を集めています。目標管理(MBO)とOKRが目指す姿は本質的には同じであり、共通点は「目標達成をマネジメントするツールであること」「目標を明確にすることで、達成の動機付けを高める仕組みであること」「自ら目標を考えさせることで、個人の内発的な意欲を高める仕組みであること」の3点が挙げられます。
一方で、OKRに特徴的な点は、「自律性・創発性を喚起する仕掛けであること」「現在の延長線上にない創造的な発想を喚起する仕掛けであること」「目標達成への取り組みや道筋を可視化するものであること」「高頻度の仮説・検証を繰り返しながら機動的にアクションを実行するものであること」が挙げられます。
従来型の目標管理の運用は、不確実で厳しい経営環境(成果が出にくい状況)においては、「予定調和的で達成しやすい目標設定」に陥りやすく、本来発揮してほしい「チャレンジ」を阻害することがあるという弱点がありました。
OKRの特徴を取り入れた形で目標管理の制度・運用を見直すことも有効で、具体的な例は以下のとおりです。
- 期初の面談では、目標の具体性よりも、「何のために取り組むのか/何に貢献するのか」の役割認識のすり合わせを重視。
- 役割を遂行するためにどのように取り組んだか(プロセスの質・量)をOne on Oneミーティングで定常的に確認することで、自律性・創造性を喚起するとともに、期末の評価の納得感を高める運用を目指す。
クレイア・コンサルティングが提供する目標管理制度の特長
クレイア・コンサルティングの目標管理制度は以下の特長を持っています。
1.独自のフレームワークに基づき、目標管理制度を総合的に機能させる
クレイア・コンサルティングの目標管理制度では、本人の努力と達成すべき成果の関係が明確になるように、目標管理の仕組みをフレームワーク化し複数のチェックポイントから検証することで、目標達成に向けた道筋を作り出します。
目標設定においては、目標のそもそもの目的である①組織目的・組織目標、②目標そのもの、③目標と現実のギャップとそこへの到達方法、の3点を明確にする必要があります。しかし、多くの企業で行われている目標管理制度においては、②の目標だけに注視し、①と③が蔑ろになるケースが後を絶ちません。
まず何のために②の目標を設定するのかという、①の組織目的・目標を上司と部下が認識し、合意する必要があります。また、③については現状と目標とのギャップを埋める計画やアクションプランが立てられているか、また過去に同じような目標を設定していた場合は、そこでの教訓をきちんと活かしているのかどうかも精査が必要です。この三点をおさえて初めて、目標管理制度は正しく機能しうるのです。
特に②の目標については、本人の努力によって達成しうる内容であり、かつ最終成果を生み出す上で鍵となる中間成果に着目して設定することが重要です。
目標管理制度では、現場における運用において、目標が着実に達成できるよう、目標を立てる際に意図的にその難易度を低く見積もったり、全社業績とは大きく関連しない目標を設定したりすることが多々あります。しかし、このような事態を看過しておくと、個々の業績が上がらないだけでなく、組織全体の目標達成にも結び付かない事態となってしまいます。
基本的に等級や役職などが上がるにつれて、求められる目標はより高く、全社業績や売上・利益など、自らの自助努力だけでは達成しえない、環境要因が大きく影響する不確実性の高いものになっていきます。一方等級や役職が下がるにつれて、目標は成果というよりも行動自体や行動の結果のアウトプットなど、業績向上につながる要因を一つ一つ細かく達成していく内容になっていきます。
このような役割分担を可能にするために、部門別に標準的なKPI等を作成して階層ごとの目標の特性を規定し、それぞれの立ち位置で適切な目標設定が可能にする仕組みを内在化させる工夫も行っています。
2.目標の達成水準を具体化する
クレイア・コンサルティングの目標管理制度では、目標における達成水準を具体的に設定し、通常は困難な間接部門等での運用も可能にしています。
目標管理制度では、目標達成度を測定しやすくするための極端な措置として、目標の内容を定量的なものに限るといった運用が多くみられます。しかし、部門の機能やミッション上、定量的な目標値が設定できない場合も多く、その運用は現実的ではありません。
クレイア・コンサルティングでは、定性的な目標であっても、達成状態が具体的になるように、例えば必要となるポイントを体系化するといった施策で、上司/部下間で認識をすり合わせしやすい形にしています。上司と部下が目標設定時においてどうすれば目標を達成できるのかをお互い認識することで、より達成度を確認しやすくすることが可能です。
目標管理制度を導入/改定する際の流れ
1.現状分析
すでに目標管理制度を運用している場合、まず現在の制度の運用状況を調べていきます。
具体的には、これまでに設定された目標とその達成度を一覧化し、横(部門間)と縦(等級レベル間)で見たときに適切な難易度になっているかどうかを比較します。役職や職位、資格等級などの階層ごとに、それぞれの役割の期待レベルに見合った内容や目標が設定されているか、それぞれの達成は部門等によってバラツキが無いかを把握していきます。同じ階層であっても目標のレベル感が異なる場合は、適切な運用が出来ていないことの証左となります。
また、それぞれの部門等で、上位者の目標やミッションが漏れなく下位の部門員にブレイクダウンされているか、言い換えれば、下位の部門員の目標達成によって、上位者の目標が達成されているかを検証します。ここで抜け漏れが無いかを確認することで、上位と下位の目標の連鎖が正しく行われているかを把握します。
続いて、目標設定時に目標が正しく設定されているかを見ていきます。ここでは、目標における目的が共有されているか、到達レベルは明確か、過去の達成度や現状と目標とのギャップの埋め方をきちんと規定しているかについて、それぞれ精査します。
そして目標については下図の「SMART」の視点などで、どれだけ具体的かつ測定可能で現実的な目標を立て、マイルストーンを設定し、上司/部下間で同意がなされているかを検証します。
また、過去の目標とその達成度の推移を部門間等で比較することで、部門・職種ごとの目標設定の巧拙の差を明らかにします。
2.部門・職種ごとの標準KPI設計
部門・職種ごとの標準的なKPIを設計していきます。
具体的には、どの組織/グループに所属する、どの職位・等級・役職に対して、どのような達成指標を目標として設定していくべきか、その指標をKPIとして明確にしていきます。
下図では、評価項目ごとのウェイトを、部門・職種ごとの課題に応じてメリハリを付けることで、経営の目指す方向性に舵を取るように設計を行いました。
例えば、営業の既存事業に関しては、取扱高の拡大に対応できる業務生産性の向上とスキルの平準化・熟達に重点を置くことが考えられます。一方、営業の新規事業については、顧客開拓数を売上より重視し、市場への参入スピードを速めるよう促すようにしました。この後、等級ごとに目標の分解を行っていきます。
3.目標設定シートの設計
上司/部下間で使用する目標設定シートを設計します。
組織目的や組織目標、上司のミッション、本人の目標の詳細など、必要な項目を漏れなく見やすく配置し、主体的に目標設定が出来るように工夫します。
下図は過去の目標管理における反省を活用できていなかった企業を対象に、前回の取り組みからの反省を記載し、さらにプロセスまで細かく記入させることで、今期だけでなく翌期にも活用できる情報を盛り込んだシートの例です。
4.評価者の目線合わせ
目標設定シートを元に、評価者の目線を合わせるための研修等を行います。
評価の甘辛はどの企業においても存在しますが、これを減らす努力を欠かしてはなりません。目標設定の巧拙がわかる題材を例示したガイドブックや研修などを評価者に対して提供し、実践を通して評価の方法やスタンスを理解してもらうことにより、より高精度で納得感の高い評価を行うことが可能となります。
下図は目標設定において、不適切な目標例を明示し、それに対してどのような修正が可能か、ワークショップを通して実習した例です。